研究課題/領域番号 |
26287059
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平山 祥郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20393754)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | メゾスコピック系 / 量子細線 / スピントロニクス / 半導体物性 / 先端機能デバイス |
研究実績の概要 |
ゲート制御に適した高移動度InSbヘテロ構造、原子層堆積(ALD)アルミナ(Al2O3)絶縁膜、ナノスケール金属ゲートを組み合わせてInSb量子ポイントコンタクト(QPC)構造を作製した。具体的には通常のスプリットゲート構造に加えて、センターにもう一つの細線状のゲートがあり、GaAs系のQPCでその有用性が確認されているトリプルゲート構造、トレンチエッチングで細線構造を狭窄し、左右の二次元系をゲートとして用いるイン・プレーン・ゲート型QPC構造を作製した。ヘテロ構造に注意することで、ゲート下の二次元系の空乏化には成功したが、GaAs系のスプリット・ショットキー・ゲートと異なり、横方向の狭窄の負電圧による増加が見られなかった。これは、絶縁膜と半導体の界面の界面準位が荷電子帯近傍で急激に増大している可能性を示唆しており、ALDの堆積条件のさらなる最適化が必要になることを示している。一方で、イン・プレーン・ゲート型QPC構造ではチャンネルの狭窄が実現され、デバイス特性の安定性には改善の余地があるが、量子化された伝導特性が確認された。直流バイアスを印加した非線形伝導特性の測定でも量子化伝導特性を示唆するダイヤモンド形状の特性が得られた。 QPCの作製と並行して、トップゲートを有するいくつかのホールバーで二次元系の伝導特性を確認した。具体的にはゲート電圧の制御により、電子密度が広範囲に制御可能であることを約1.5Kの測定温度で確認した。また1.5Kからより高温の範囲で温度依存性の測定をいくつかのホールバー構造でスタートし、この範囲での温度依存性は比較的単調であることを確認した。さらに、これらの測定を通して、H27年度以降の高精度な金属・絶縁体転移の実験に適したデバイスを決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画で予定しているスプリットゲート型、トリプルゲート型、イン・プレーン・ゲート型の量子ポイントコンタクト(QPC)構造について、InSbヘテロ構造上にALD絶縁膜を用いてQPC構造を作製するプロセス技術を確立し、異なるタイプのQPC構造を実現し、さらにその伝導特性を1.5Kで測定した。チャンネルの狭窄と量子化コンダクタンスの測定に成功したのは、現時点ではイン・プレーン・ゲート型構造のQPCであるが、電子ビームリソグラフィによる微細パターンの形成も含めて、様々なQPC構造作製に向けたプロセス技術を確立した点、QPCの低温における量子化伝導特性を確認した点は完璧とは言えないものの、概ね計画通りの進展であったと判断できる。 また、ALDアルミナ絶縁膜上にトップゲートを有するInSb二次元ホールバーを作製し、ゲートにより広範囲に電子密度を制御できることを確認するとともに、1.5K以上の温度範囲で抵抗率の温度依存性を測定したことも計画通りの進捗であり、H27年度以降の並行磁場を含む高精度な金属・絶縁体転移の測定に関して、それを遂行する準備が整ったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度に量子ポイントコンタクト(QPC)に至らなかったスプリットゲート型の構造について、チャンネルの狭窄ができなかった理由を明確にし、プロセスを検討してチャンネルの狭窄を実現する。さらに、GaAs系でその有用性が確認されているトリプルゲート型QPCの実現をInSb系でも目指す。また、イン・プレーン・ゲート型QPCなど量子化特性が得られたQPCについて、閉じ込めポテンシャルの非対称性やバイアスを加えた非線形伝導特性測定から一次元閉じ込めの特徴、ゲートによるスピン分離の制御の可能性を明らかにする。さらに、並行磁場下でスピン分離が極めて強くなるInSbQPCにおいて、0.7構造がどのように振る舞うかをスピン分離特性と関係づけて調べる。なお、これらInSbQPCの研究はグループで先行しているGaAs系QPCの特性と比較しながら進める。 金属・絶縁体転移の研究に関しては、移動度の異なる様々なヘテロ構造からスタートしたゲート制御ホールバー構造の並行磁場下での伝導特性(温度依存性)を総合的に調べることで、金属・絶縁体転移に及ぼすスピン偏極、スピン軌道相互作用、不均一による乱れの影響を明確にする。並行磁場によりスピン偏極した場合、一般的には絶縁性が強くなることが示されているが、スピン軌道相互作用が大きく、有効質量の小さいInSb二次元系でどのような振る舞いになるかは物理的に興味深い。 また、研究グループで実証されたInSb二次元系での抵抗検出NMR手法を上記の研究と組み合わせることで、電子スピンの偏極度や揺らぎの大きさを測定し、これらをInSb二次元系、一次元系の物性解明に役立てる。特にスピン偏極を示唆する結果がInSbQPCで得られた時に、スピン偏極をNMRスペクトルから直接確認することができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度は様々なスタイルのInSb系量子ポイントコンタクトの作製技術の確立に重点をおいたが、デバイス設計や電子ビームリソグラフィによる構造最適化に重点を置いたため、ALD堆積条件の最適化には時間が回らなかった。また、作製した様々な量子ポイントコンタクトの特性測定に液体ヘリウムを使用した冷凍機を用いたものの、グループで一番低温に到達する希釈冷凍機がH26年度は修理中であったため、新しい測定系をセットしての低雑音・高精度の測定は次年度以降となった。修理状況によっては他の装置の使用も考える必要があるため、測定系の構築には至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H26年度に行った様々なInSbQPCの伝導特性の測定結果を受けて、ALD堆積膜の最適化などのプロセスの再検討を、材料などを購入して進める。また、希釈冷凍機の修理終了後に角度依存性を含む一連の精密測定をスタートする。特に、雑音を低減したシステムを構築し、精密にパラメータを変化させた実験を、装置を長期間連続的に使用して行う。また、H27年度の後半から得られた成果の外部発表を強化し、ここにも予算を使用する。
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