研究実績の概要 |
間接遷移型半導体を舞台としたポリ励起子相の可能性解明を目標に据え、電子相関に信頼性の高い理論手法を用いて、3次元電子正孔ガスの大域的相図を解明する研究を行った。「引力ポテンシャルによる束縛と、遮蔽による遍歴化の拮抗」という量子多体問題上の重要な学理に関連し、数々の理論的提案がなされてきたが、いずれも模型での遮蔽考慮の流儀次第で結論が大きく変わり、決定的解明に至っていない難問である。平成27年度には、2次元系に対象を限定し、「実効相互作用+励起子複合体のみの波動関数」を用いた記述方策に移行して研究を進めた。「電子正孔質量比」と「実効相互作用の遮蔽パラメタ」の2パラメタ空間中で、電子正孔束縛エネルギー値を評価する拡散モンテカルロ法計算のプロダクトランが順調に進んだ。この2次元相図は、「原子核の動的な量子ダイナミクス効果の大小」と「遮蔽の効きによる電子相関効果の大小」をパラメタとした記述に相当しており、例えば、「ドナー不純物に束縛される励起子の安定化程度」の物質トレンドに基本的な情報を提供し、「励起子を安定に存在させたい場合には、不純物やキャリア濃度を、どの方向に調整すべきか」といった指針を与える。これら成果は現在、英国ランカスター大との国際共著論文として投稿準備中の段階にある。また、電子ガス模型上での展開と並行して、層状カルコゲナイドなど、遷移金属化合物系層状物質の解析にも研究が展開し、ある種の層状系で観測される長い励起子寿命の機構解明に関する研究を進めるうち、具体的なバンド構造から有効質量模型に持ち込む過程で、非自明な不安定格子振動モードを発見するなどの成果を得た[K. Nakano, K. Hongo, and R. Maezono, Scientific Reports 6, 29661 (2016)]。
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