研究課題/領域番号 |
26287069
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
浅野 泰寛 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20271637)
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研究分担者 |
延兼 啓純 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60550663)
丹田 聡 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80217215)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超伝導 |
研究実績の概要 |
準古典グリーン関数法を用いて、微小な異方的超伝導体の2次元ディスクにおける磁化率の温度依存性、ディスクサイズ依存性を詳細に調べた。超伝導の対称性はスピン1重項d波対称性とスピン3重項p波対称性を仮定し、電磁場の従うマクスウエルの方程式と準古典グリーン関数の従うアイレンベルガ-方程式を連立させ、ペアポテンシャルとベクトルポテンシャルを互いに矛盾の無いよう数値的に求めた。その結果、スピン1重項d波超伝導体のディスク、スピン3重項p波超伝導体のディスクともに、ディスクサイズがコヒーレンス長の10倍程度の場合には、低温で反磁性的な磁化率から常磁性的な磁化率へクロスオーバーを示す事が分かった。クロスオーバーを起こす温度をディスクサイズの関数として調べたところ、サイズが大きくなるに従ってクロスオーバー温度が低下することが分かった。この、異常な低温常磁性相の存在は、超伝導ディスク表面に現れる奇周波数クーパー対が原因であることを、明らかにした。通常の偶周波数クーパー対は教科書通り反磁性的な性質を持つが、奇周波数クーパー対は常磁性的な性質を持つことを、解析的にも示した。微小な異方的超伝導体は、低温において常磁性であることとの普遍性を確認した。 実験的研究においては、微小なスピン1重項d波超伝導体試料を作成し、磁化率の測定を試みている。現在のところ理論的な予想と一致する測定結果は得られていないが、実験と理論が一致しない原因をほぼ明らかに出来た。理論的には超伝導体の表面は滑らかであることを仮定している。一方実験では、バルクの試料からFIBを用いて微小な試料を得ており、その表面は乱雑である。この乱雑さのために常磁性相が観測できない事をほぼ明らかに出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微小な異方的超伝導体が低温で常磁性を示す事を理論的に明らかにした事は極めて重要な成果である。超伝導の標準的な教科書には、超伝導体は完全反磁性体であると記述され、反磁性である限り超伝導状態が安定であることも示されている。超伝導体の大きさが、コヒーレンス長や磁場侵入長に比べて十分に大きな場合には、この知見が正しい。超伝導の対称性がスピン1重項d波やスピン3重項p波のように異方的である場合、その表面にはアンドレ-エフ束縛状態の発生に伴う奇周波数クーパー対が現れる事は以前から知られていた。また、その奇周波数クーパー対が常磁性的な性質を持つことは、我々が以前の研究で明らかにしている。コヒーレンス長で特徴付けられる表面の面積の割合が、ディスク全体の面積に比べて無視できない大きさになったとき、常磁性的な超伝導状態が可能である事を一切の仮定無く示す事が出来た。この結果は一見、超伝導研究分野における常識に反することである。基礎科学的、また応用科学的にも「微小な」超伝導体を対象とした研究は極めて盛んに行われている。我々の成果は電磁気学的に云うところの「微小な」超伝導体の定義を明らかにした事になり、その意義は極めて大きいと言える。 また、我々はこの異常な常磁性的な超伝導状態を実験的に確認する方法を提案できた。実験的に微小な試料の磁化率を精密に測定するのは十分に可能である。また、低周波電磁場中における表面インピーダンスの測定からディスクの磁化率に相当する物理量を測定することも可能である。実験系では反磁性から常磁性へのクロスオーバー温度程度に試料の温度を下げる必要があるり、クロスオーバー温度の見積もりは実験可能性を議論する上で大変重要なパラメータである。我々は、微小な超伝導体においてクロスオーバー温度が超伝導転移温度の10パーセント程度であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
理論研究の予想を実験で確認するためには、実験で用いる試料には必ず存在する表面ランダムネスが常磁性超伝導相に及ぼす影響を明らかにせねばならない。異方的な超伝導は乱れの少ない、いわゆるクリーンリミットでなければ発現しないので、バルク領域におけるポテンシャルの乱れは考慮する必要が無い。しかし試料表面における乱雑さは、発生した奇周波数クーパー対に大きく影響する可能性がある。奇周波数クーパー対がポテンシャルの乱れによって壊れてしまえば、常磁性相は消失する事になる。現在、スピン1重項d波超伝導体の表面には、p波やf波といった異方的な対称性をもつクーパー対が現れ、これらは表面ランダムネスのために壊れてしまうと予想している。その一方で、スピン3重項p波超伝導体の表面にはs波対称性の等方的な奇周波数クーパー対が現れる。この奇周波数クーパー対は表面ランダムネスに対して強く、従って常磁性相は低温において残ると考えている。これらの予想を理論的に確認することが、短期的な課題である。 「常磁性的な超伝導状態」は果たして、エネルギー的(準熱力学的)に安定かどうかを、確認する必要がある。微小な異方的超伝導体は、表面アンドレーエフ束縛準位や表面奇周波数クーパー対のために空間的に非一様性の強い状態となっている。常磁性的な奇周波数クーパー対の存在する表面においては、自由エネルギー密度が正、即ち不安定であることが予想される。その一方で、通常の偶周波数クーパー対が存在するバルク領域の自由エネルギー密度は負、即ち安定になるべきである。自由エネルギー密度を微小な超伝導体全体で積分した自由エネルギーが負であると同時に、超伝導体全体の磁化率が常磁性になることが果たして可能かどうかを、理論的に明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
基金分を次年度に繰り越した。研究および資金の効果的な支出はほぼ計画に準じて実施できている。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した基金は、主に研究代表者、分担者および学生の旅費として使用する予定である。
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