研究課題/領域番号 |
26287072
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡本 徹 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60245371)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表面物性 / 低温物性 / Rashba効果 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
外部磁場および磁性不純物は、クーパー対の時間反転対称性を破り、超伝導を壊す働きをすることが知られている。しかし、両者が結びつくことによる効果については明らかにされていない。外部磁場の効果として、軌道効果とパウリ常磁性効果が挙げられるが、磁性体を含む超伝導体においては、第三の効果、すなわち局在磁気モーメントの方向が外部磁場により変化することによる効果が考えられる。我々は、以前の研究において、Pb単原子層膜の超伝導転移温度の平行磁場依存性が、強いRashba効果のもとに形成される秩序変数の位相が空間変化する2次元超伝導相が形成されることによって非常に小さくなることを示した(Sekihara et al. Phys. Rev. Lett. 111, 057005 (2013))。本年度は、母体の超伝導体としてPb 超薄膜を用いて、磁性体を通じた効果を調べた。 10%のCeを含む合金において、磁性元素であるCeによってゼロ磁場の超伝導が完全に壊された状態から、平行磁場によって超伝導を誘起することに成功した。これまで、磁場誘起超伝導は数例しか報告されていないが、スピン三重項超伝導であるURhGeを除くといずれもJaccarino-Peterに機構によるものである。しかし、今回の我々の結果は、同機構で説明することはできず、磁場によって磁気散乱が抑制された結果として理解でき、初めての観測である。 また、MnやCrの場合には近藤一重項の形成によりスピン自由度が失われるが、Pbの上に一原子層程度のAuをはさむことによりスピン自由度を復活させて、磁場による超伝導転移温度の上昇を観測することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超伝導薄膜に対するトンネル分光測定にはまだ成功していないが、磁性体を不純物として加えたPb超薄膜の研究において、磁場誘起超伝導や近藤効果の制御など重要な成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
磁性体と超伝導薄膜の相互作用に関する研究を発展させるとともに、超伝導薄膜に対するトンネル分光測定の研究をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
半導体試料の劈開の成功率が上がったため実験の効率が良くなり、液体ヘリウムの使用量が減ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
走査トンネル顕微鏡システムの立ち上げに多くの寒剤費を充てる。
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