研究課題/領域番号 |
26287074
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野村 竜司 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (00323783)
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研究分担者 |
奥田 雄一 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (50135670)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子固体 / 超流動 / 摩擦 / トライボロジー / 濡れ |
研究実績の概要 |
新たな清浄表面物理の舞台としての超流動液体中の4He量子結晶を用いた摩擦の研究を行い、熱揺らぎの小さい低温極限における量子的トライボロジーの開拓を行う。4Heの超流動液体や量子結晶においては、巨視的量子トンネル効果、非散逸流、超高速結晶成長など、その動的性質に巨視的量子効果が現れることが知られている。しかし、これらの量子効果が非平衡現象の典型としての摩擦にどのように影響を与えるかは未開拓であり、古典物質では実現しえない新現象が現れる素地となる。また基板の微細加工による4He結晶の濡れ性の制御実現、濡れ性の弱い基板上への超流動膜の浸潤による4He結晶の超潤滑の探索、および濡れ性に空間変調をかけて乱れを導入した基板上での4He結晶の摩擦力の測定を行うことを目的とする。 基板表面の粗面化やパターン化により液体の濡れ性が変化することは、いわゆる蓮の葉効果としてよく知られている。一方で、超流動4Heに接する基板表面には、基板からのファンデルワールス力により数層の固体4He薄膜が形成していると考えられている。このような状況で基板表面を粗面化した場合でも、4He結晶の基板に対する濡れ性が変化するかは自明でなく、これまで研究された例は無い。粗面化による濡れ性の制御が原理的に可能であるかどうかを調べるために、我々は市販の雨水用撥水剤いわゆる液体ワイパーでガラス面をコートし接触角を測定した。複数の結晶サンプルによって同様の観測を行ったところ、ほぼすべての結晶でコート面側での接触角の増大(5~25°)が見られた。市販の液体ワイパーをそのまま極低温の4He結晶に用いるという奇策であったが、濡れ性の制御が可能であると分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基板に接着したピエゾ素子にノコギリ波状のパルス電圧を印加することにより基板を非対称に振動させ、動摩擦力と静止摩擦力の差を利用して結晶を駆動させること(尺取虫駆動法)を試みた。c-ファセットが基板に対して平行な扁平結晶に、パルス幅1 ms、間隔10 msの電圧を100回与えることにより、超流動液体中で4He結晶を一方向に駆動することに成功している。また市販の撥水剤をガラス面にコートすることにより4He結晶の濡れ性の制御が可能であることも示すことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の経験から撥水コート剤が4He結晶の接触角を変化させることが可能であると分かっている。これをさらに推し進めて、新たな基板微細加工や異なる種類の撥水剤を用いるなどして表面処理の条件を系統的に変化させて、結晶の濡れ性が弱くなる条件を見出す。最終的に接触角が180度近くになるWenzel状態からCassie-Baxter状態への変化を実現する。また接触角の変化と基板状態の対応関係を定量的に明らかにする。具体的には基板の微視的構造を原子間力顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用いて観測し、凸凹の様子を定量的に評価する。古典液体においてはこの凸凹はCassie-Baxterの関係式を用いれば接触角の変化と対応付けることが可能とされており、量子結晶においても対応が成り立つかを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年1月に実験に使用していた高圧容器に不測の故障が生じたため、この容器の修理と調整が必要になった。この期間内に寒剤として用いる予定であった液体ヘリウム代を使用しなかったために、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に行う予定であった異なる撥水剤を用いた基盤での接触角測定を、前年度に使用する予定であった液体ヘリウム代を使用して行う。本年度分として請求した研究費は基板微細加工や、それらの基板を用いた接触角実験の研究へ用いる予定である。
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