研究課題/領域番号 |
26287075
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
小久保 伸人 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (80372340)
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研究分担者 |
岡安 悟 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究主幹 (50354824)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超伝導材料・素子 / メゾスコピック系 / 量子渦(磁束量子) / 走査プローブ顕微鏡(SSM) / 低温物性 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、前年度までに見出した微細孔(アンチドット)の配置及び大きさ条件を参考に、微小超伝導体の量子渦状態をアンチドットで制御する研究を行った。その結果、多重に量子化された巨大量子渦に相当する多重化磁束を直接観測することに成功した。巨大量子渦は、微小超伝導体の閉じ込めにより誘起される微小系特有な量子渦状態である。これまで理論的な考察により、極めて小さな試料または超伝導転移温度付近の狭い温度域のみで出現することが指摘され、実験的に可視化することは困難であるとみなされていた。アンチドットの導入は、多重化磁束の出現条件を緩め、実験的に扱いやすい試料サイズおよび広い温度領域で観測可能とする。理論的な提案もあったが、その有効性を実証したのは本研究がはじめてとなった。しかし、実験を進めると、磁束の多重化は、アンチドット間に侵入する量子渦の誘起により妨げられ、多重化が進まなくなることが分かった。多重化磁束を見出すアンチドットの配置及び大きさの最適化が必要となった。 一方、反量子渦の直接観測についても、アンチドット配置の見直しと、印加磁場反転操作による磁場履歴効果を併用する方法で進めた。その結果、反量子渦に相当する反磁束を直接観測することに成功した。しかし、本課題研究で目指す通常の磁束と反磁束との共存状態の観測には至らなかった。超伝導体の試料端に形成される表面バリアが通常の磁束の侵入を妨げていると考えられ、このバリアの影響の低減が課題として残った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、前年度までに見出したアンチドットの配置や大きさなど具体的な実験条件を参考に、微小超伝導体の量子渦状態をアンチドットで制御する研究を行った。アンチドットの配置を見直し、ピン止めによる磁場履歴効果を併用した結果、反量子渦に相当する反磁束の直接観測に成功した。本課題研究で目指す、通常の磁束と反磁束の共存状態の可視化に必要な情報を得ることができたので、当該年度の研究計画は“おおむね順調に進展している”と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
超伝導体に設けたアンチドットを貫く、反磁束と磁束の共存状態を、ピン止め効果と磁場反転操作を含む磁場履歴効果を使って見出すため、試料端からアンチドットへの磁束侵入を妨げる表面バリアの影響を調べる。試料の膜厚を変えた微小試料を用意し、同時に試料端とアンチドットの距離も変えながら、走査SQUID磁気顕微鏡による磁束観察実験で表面バリアの寄与の変化を明らかにする。これまでに見出した反磁束の誘起条件と組み合わせることにより、反磁束と磁束の共存状態の直接観測を目指す。 さらに前年度に成功した多重化磁束についても、その出現条件を詳細に調べ直す。アンチドット間に侵入する量子渦の出現で磁束の多重化が進まないなど課題が残されているので、試料サイズやアンチドットの配置、深さを変えながら、多重化磁束の観察実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内の遊休設備や不用品を再利用することで、直接経費を節約し、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額は、走査SQUID磁気顕微鏡の追加実験に必要な寒剤や旅費等の経費に充てたい。
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