研究課題/領域番号 |
26287078
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
米澤 進吾 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30523584)
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研究分担者 |
石田 憲二 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90243196)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低温物性 / スピン三重項超伝導 / 核磁気共鳴 / 熱力学測定 / 超伝導対破壊機構 / ルテニウム酸化物 |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の測定から、Sr2RuO4および関連物質のスピン三重項超伝導に関する新たな現象を見出した。(1)まず、Sr2RuO4の比熱・磁化のふるまいからも、高磁場で超伝導転移が一次相転移になっていることを確認した。(2)また、Sr2RuO4の磁場回転下での比熱の異常が、磁場方向の回転によって超伝導秩序変数がフリップするという新しい現象で説明できることを見出した。これは、Sr2RuO4で長年議論されてきた非カイラル超伝導相を発見したことにも相当する。また、この現象と超伝導一次相転移が強く関連していることも示唆した。(3)次に、核磁気共鳴(NMR)法の実験により、Sr2RuO4のスピン磁化率が超伝導相内ではわずかに増加傾向を持つことを明らかにした。(4)さらに、スピン-スピン緩和率が超伝導相内で顕著に増加することを見出した。これはc軸方向スピン揺らぎの増大を示しており、スピン三重項超伝導秩序変数の協奏的な運動が生じている可能性を示唆している。(5)さらにほかのスピン三重項超伝導体や関連物質の比熱測定やNMR測定を行い、スピン三重項超伝導に関する有用な知見を得た。 また、以下のように今後の研究の基盤となる研究も行った。(6)Sr2RuO4の交流磁化率を詳細に調べることで、Sr2RuO4の渦糸相図を明らかにした。(7)加えて、Sr2RuO4の単結晶試料の迅速な評価方法を新しく開発し、これまでに準備だけで一晩かかっていた試料評価が、試料ひとつ当たり最短5時間程度で測定できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Sr2RuO4におけるスピン三重項超伝導と磁場の新奇な相互作用の解明に向けて、計画していた比熱測定やNMR測定だけでなく、共同研究の磁化測定などによって、新たな知見が得られた。また、Sr2RuO4以外のスピン三重項超伝導候補物質や、Ru系関連物質に関しても研究を進めることができた。これらの情報はSr2RuO4の超伝導を理解する上でも重要になる。また、試料評価の高効率化など、来年度以降の実験に役に立つ技術開発にも成功した。これらの結果について、招待講演を含む多くの学会発表を行うとともに、論文発表も6件行えた。一方、計画していたネルンスト効果や熱ホール効果の測定は、他の研究展開があったためにまだ進展していない。これは来年度以降の課題である。 これらの理由により、本年度の研究は「おおむね順調に進展している」と自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り、Sr2RuO4に対する、熱力学測定とNMR測定を継続し、データの解析も積極的に行うとともに早期の論文出版も目指す。また、高磁場での渦糸状態に関して、ミューオンスピン回転を用いた実験を共同研究で行う。ネルンスト効果や熱ホール効果の測定は、共同研究も視野に入れて取り組む。純良単結晶試料の育成と評価も積極的に取り組み、試料評価技術に関しては論文化を目指す。 また、スピン三重項超伝導の候補物質であるCuxBi2Se3やUCoGe、またRu金属のナノ粒子等について興味深い結果が得られているので、引き続き実験を行い、可能であれば早期の論文化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
低温実験では、寒剤としての液体ヘリウムや液体窒素の代金が継続して必要となる。3年間の研究期間全体にわたって寒剤代金を確保し継続的に研究をするため、初年度の基金分のうちの半分程度は次年度以降の寒剤代に充当するために使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
主に、実験に用いる液体ヘリウム・液体窒素の代金として使用する予定である。
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