研究課題
本研究は、Ca-Fe-As三元系の物質開発を進め、ヒ素の化学を利用した超伝導転移温度上昇のアイデアを試み、転移温度上昇の物質条件を明らかにすることを目的としている。この中で、平成27年度(2015年度)は、筆者らが2013年に発見した新しい鉄系超伝導体112型CaFeAs2に関係して、以下の項目を明らかにした。(1) La ドープによる超伝導の消失と反強磁性秩序の発現:Ca1-xLaxFeAs2はLaドープ量 x = 0.15 で超伝導転移温度が最高値 Tc = 35 K を示し、La量を増やすと Tc が低下していき、x = 0.24 で超伝導が消失する。本年度は、この Tc 低下と超伝導消失が、ドーピングによって現れる反強磁性秩序によることを明らかにし、超伝導相と反強磁性相の相図を作成した。この成果は Phys. Rev. B, Rapid Communications として出版された。(2) Sbドープサイトの解明:Ca1-xLaxFeAs2 に Sb をドープすると Tc が 47 K まで増加するが、本年度は、単結晶X線回折実験により、Sb が 超伝導を担うFeAs 層の As サイトではなく、ブロック層にある As ジグザグ鎖を置換することを明らかにした。(3) 臨界電流密度:Tc = 47 K を示す単結晶試料の臨界電流密度を決定した。この成果は英国物理学会の超伝導専門誌 Supercond. Sci. Technol. に掲載された。(4) 圧力ー組成相図:Laドープ量を増やすと反強磁性秩序が発達することを受け、静水圧を制御パラメータとした場合の物性相図の作成に着手した。(5) 物質開発の副産物として、新超伝導体 MgPtSi を発見した。Tc は 2.5 K であった。
2: おおむね順調に進展している
112型 CaFeAs2 の研究は順調に進み、超伝導と反強磁性相図を完成することができた。圧力を制御パラメータとした場合のデータ取得も完了し、データの解析と論文投稿の準備を進めている。122型 CaFe2As2 については国内外の放射光施設を使って実験を進めているが、Tc の上昇機構の議論に必要なデータ取得のために追加の実験が必要である。この実験は平成28年度に行うことになっている。また物質開発の副産物として、新超伝導体 MgPtSi を発見している。以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
以下の三点に注力する。(1) 112型CaFeAs2の化学組成と静水圧に対する物性相図を完成させる。特に、電気抵抗率の温度依存性の「べき」に着目し、圧力下における反強磁性揺らぎの変化についての知見を得る。これらの結果をまとめて論文投稿を行う。(2) Sbドープ 112型における単結晶構造解析の研究を完成させ、Sb ドープサイトに関する論文を投稿する。(3) 122型 CaFe2As2の単結晶試料について EXAFS などの局所構造解析実験を実施し、希土類元素をドープしたときに発現する40 Kを超える超伝導相の起源に関する手がかりを得る。EXAFS 実験はローマ大との国際共同研究として既に進行中である。また、ヒ素の化学を利用した物質開発を引き続き進める。
申請時に購入を予定していた設備備品(単結晶ブリッジマン炉)を購入する必要が無くなったため。
消耗品費(石英ガラス管、アルミナ坩堝、試薬、ガスボンベ、寒剤など)、国内旅費、海外旅費、英文校正、X線装置使用料など、平成28年度の研究遂行に必要な経費として使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 6件、 招待講演 5件)
Phys. Rev. B.
巻: 93 ページ: 140505(R)-1-5
10.1103/PhysRevB.93.140505
巻: 93 ページ: 134109-1-6
10.1103/PhysRevB.93.134109
Supercond. Sci. Technol.
巻: 29 ページ: 055006-1-6
10.1088/0953-2048/29/5/055006
Phys. Rev. B
巻: 93 ページ: 064504-1-6
10.1103/PhysRevB.93.064504
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 18931-1-7
10.1038/srep18931
巻: 92 ページ: 180508(R) -1-5
10.1103/PhysRevB.92.180508
J. Phys. Soc. Jpn.
巻: 84 ページ: 093701-1-4
10.7566/JPSJ.84.093701
巻: 91 ページ: 174514-1-5
10.1103/PhysRevB.91.174514
Science and Technology of Advanced Materials
巻: 16 ページ: 033503-1-87
10.1088/1468-6996/16/3/033503
巻: 84 ページ: 055001-1-2
10.7566/JPSJ.84.055001