研究課題/領域番号 |
26287083
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝至 広島大学, 先端物質科学研究科, 教授 (00192617)
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研究分担者 |
鬼丸 孝博 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (50444708)
中村 文彦 久留米工業大学, 工学部, 教授 (40231477)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超音波分光 / バイブロニック / カイラル / 多極子 / 巨大振幅原子振動 / 強磁場 / 極低温 |
研究実績の概要 |
PrT2Zn20 (T=Ir, Rh)について,計画当初は27年度実施を計画していたドイツ国立ドレスデン強磁場研究所との共同研究を26年度中に実施し,パルス超強磁場マグネットを用いた弾性率測定実験を行った。この結果,超強磁場中において,これまで報告例のない,磁場誘起相転移あるいは磁場誘起相を検出した。また,回転不変性効果の兆候をも見出した。これらの成果は,当初の計画以上に進展しているといえる。ただし,パルス強磁場では,観測される現象が短時間にしか検出できないため,磁場誘起相の特定には至っていない。そこで,27年度ではこの磁場誘起相の正体を突き止めるため,東北大学強磁場施設との共同研究を行い,極低温定常強磁場中の実験を実施する。当該物質以外の成果としては,Yb系重い電子反強磁性体として注目されているYbIrGeの結晶場分裂した4f電子状態を弾性率測定の観点から詳細に決定した。更に,この物質は低温で時期的な逐次相転移を行うが,この磁気相図も決定した。 分担者による成果として,カゴ状化合物PrIr2Zn20の純良単結晶を作製し、磁場中比熱を0.1 K以下まで測定した。磁場[100]方向において、非フェルミ液体的挙動から重い電子的な振る舞いへのクロスオーバーを見出した。非クラマース系の新たな基底状態が発現している可能性が高い可能性がある。27年度は,この新規の基底状態について超音波測定や中性子散乱、NMR/NQRなどの微視的手法により検証する。一方,モット絶縁体Ca2RuO4においては,わずか40 V/cmの電場で2%もの大きな体積変化を伴って金属化することを最近発見した。転移温度近傍での比熱・潜熱の測定を行った結果,比熱は,357Kの転移温度近傍で潜熱に伴う鋭いピークを示すとともに,357-200 Kにわたってなんらかの内部自由度の増加を示唆するエントロピーの増大を観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたとおり,当初の計画では27年度に実施予定のパルス超強磁場マグネットを用いた超音波分光実験を,26年度中に前倒しし,ドイツ国立ドレスデン強磁場研究所との共同研究により実施することが出来た。この実績は,当初計画以上に進展していることを端的に示している。しかしながら,この実験から当初予想しなかった新たな発見(新規の磁場誘起相転移または磁場誘起相)があり,この正体を突き止めるため,極低温の定常超強磁場を用いた実験を27年度中に行うこととなった。分担者の研究においては,磁場中のPrIr2Zn20の電子基底状態は非クラマース的の新規状態であることが明らかになりつつある。これも,当初予想しなかった結果であり進展しているといえる。また,Ca2RuO4では,金属絶縁体相転移温度357Kより低温の357Kから200Kまでの広い温度範囲にわたってエントロピーの放出があることが分かった。これは,隠れた秩序変数の存在を示唆していると同時に,この特定がわずかな電場で電場誘起金属絶縁体転移が起きる原因の解明に直結していると考えられる。これらの発見も,当初の計画では予想しなかった重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
PrT2Zn20 (T=Ir, Rh)のパルス超強磁場中で初めて見出した磁場誘起相転移の機構解明に向けては,東北大学強磁場施設の有する極低温定常超強磁場環境を実現する最近開発されたマグネットを共同研究により使用し,超音波分光実験を行う。この共同研究では,同時に回転不変性効果の実験も行い,新規バイブロニック状態の検出及びカイラル対称性の破れの検証を目指す。磁場中におけるPrIr2Zn20の電子基底状態は非クラマース的の新規状態の検証は,超音波測定や中性子散乱、NMR/NQRなどの微視的手法により行う。Ca2RuO4の隠れた秩序変数を示唆する広い温度範囲におけるエントロピー放出の原因解明については,軌道の関与が濃厚であるため,超音波分光法による詳細な実験を計画している。以上は,当初の計画以上に進んだ成果についての今後の研究推進方策である。これら以外の研究計画は,次の通り着実に進める予定である。 対象物質をRT2Zn20 (R = Pr, La; T = Ru, Ir, Rh)に広げ,回転応答,歪み応答の磁場中温度依存性及び温度を固定した磁場依存性を測定する。また,音響的dHvA効果も測定してフェルミ面情報も取得する。La系物質の測定を行うのは,バックグラウンド測定の意味もあるが,主として回転応答測定の信頼性を確認するためである。多極子と格子の結合の内径では回転応答の異方性がないことを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終的な残金が比較的少額となったため,次年度予算と合わせて,より有効に活用するのが得策と判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究計画を円滑に進めていく上で有効な物品の購入に充てることとなる。 なお,残金は少額であるため,次年度の研究計画に有意な影響を与えるものではない。
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