研究課題/領域番号 |
26287085
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 明 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10242033)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子統計力学 |
研究実績の概要 |
たった1個の量子純粋状態を用いた量子統計力学の定式化であるThermal Pure Quantum (TPQ)形式について、平衡状態のまわりにゆらぐようなTPQ状態を構成し、その非平衡統計力学との関係を調べた。その結果、ゆらぎを理想的に測定した場合に測定される時間相関関数は、canonical 時間相関では無くて、対称化積時間相関になることが分かった。その結果、Onsagerの平均崩壊仮説や、揺動散逸関係が、量子系では破綻する場合があることが分かった。具体的には、応答関数の対称化部分と反対称化部分とで、その破綻の仕方が異なる。対称化部分については、周波数が温度よりも高い部分について、平均崩壊仮説も揺動散逸関係も破綻する。反対称化部分については、ゼロ周波数を含む全ての周波数で、平均崩壊仮説も揺動散逸関係も破綻する。一見すると、周波数が温度より低い部分まで破綻するのは不思議に思うかもしれないが、因果律が様々な周波数を混合するため、量子効果がゼロ周波数まで及ぶためである。 また、並進対称性を持たない複雑な構造を有する系を、Thermal Pure Quantum (TPQ)形式を用いて解析し、その物理的性質を調べた。いままで解析してきたような並進対称性を持つ系は、せいぜい相転移ぐらいしか興味深い性質を示さないのに対し、そのような系は、「機能」と呼べるものを持つ可能性がある。そこで、系の構造を積極的に設計し、望みの機能を持った系を、TPQ形式で設計して解析した。その結果、微小なディスプレイや微小な量子非破壊計算機のプロトタイプを設計することができた。 これらの成果は、「研究の目的」と「研究実施計画」に記載した研究を確実に達成した成果であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究の目的」は、thermal pure quantum (TPQ) 状態と呼ばれるたった1個の純粋状態を用いた統計力学の定式化を、次の3つの方向に発展させることにあった:(i) 従来は解析が困難だったフェルミオン系などに適用し、有用さを実証する。(ii) 非平衡統計力学へ拡張する。(iii) 時間ゆらぎが直接見えるような、局在したTPQ状態を作り、その状態から応答関数を計算する新しい手法を作る。 この目標に対して、達成度は、(i) ハバードモデルで与えられる相関電子系の有限温度の性質を解析することにも成功し、TPQ状態のエンタングルメント(量子もつれ)も明らかにし、さらに、並進対称性を持たない複雑な構造を有する系の解析にも成功したので、かなり進展した。(ii) 線形応答理論を、TPQ状態を用いて再定式化することに成功し、非平衡定常状態のTPQ状態を構成することもできたので、進展した。(iii) 平衡状態のまわりのゆらぎの理論を、最新の量子測定理論で解析する理論を作ることに成功し、Onsagerの平均崩壊仮説や揺動散逸関係の量子破綻を導くことができたので、かなり進展した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、本研究課題の最終年度であるから、今までに得られた成果を発表するために煮詰めていく作業と、総まとめを行う。 具体的には、大量の追加計算をして、データがかけてる部分を補っていく。そのために、今年度も大量の数値計算を必要とするので、ワークステーションを購入する。そうして得られた追加データを、いままでに得られたデータと合わせることで全貌がはっきりしてくるので、それらを分析する。その分析結果を基に、論文書きと、国際会議や研究会や学会での発表を行っていく。そのために、今年度は旅費にかなりの支出を要することになる。 発表にかかる経費とワークステーション購入費のバランスは、その都度判断して最適になるように留意する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費、旅費、人件費・謝金それぞれについて少しずつ節約をすることで、「次年度使用額」に記した程度の金額を値引きしてもらうことができた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、発表のための経費が多くかかるので、次年度使用額をそれに用いることにより、他の経費が圧迫されないようにする。
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備考 |
研究代表者の主催する研究室の最近の研究成果の解説の中で、本研究課題の研究についても解説している。
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