研究課題/領域番号 |
26287087
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小川 哲生 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50211123)
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研究分担者 |
馬場 基彰 大阪大学, 基礎工学研究科, 招へい教員 (30647970)
弓削 達郎 静岡大学, 理学部, 助教 (70547380)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非平衡開放系 / 量子凝縮 / 量子コヒーレンス / レーザー / 量子熱機関 / 超強結合量子系 |
研究実績の概要 |
非平衡系の量子凝縮を記述しうるマクロ量子論の構築に向け,まず,複合量子系の具体例としてレーザーを熱機関として捉えたモデルの設計と解析を行った。このモデルでは,高温熱浴と低温熱浴によって熱励起された物質系が共振器内の光子と相互作用し,共振器損失によって光が外部環境へ出力される。このモデルを量子マスター方程式によって解析し,定常状態における出力光が運ぶエネルギーを仕事流とみなして熱効率を計算すると,熱力学と矛盾する結果となるパラメータ領域が存在することが分かった。この結果は,量子熱機関の解析において,出力エネルギーを素朴に仕事と勘定すべきではなく,仕事と熱への適切な分解が必要であることを示している。この結果は日本物理学会第71回年次大会において発表した。 半導体の励起子が発光する際には,その重心運動のコヒーレントな広がりの体積が発光寿命に反映される。近年,この発光寿命の発光波長依存性が実験的に観測され,重心運動のコヒーレンスだけでなく,物質中における光と励起状態とのコヒーレントな結合状態を発光先として考える必要があることを見出した。この解析により,発光現象におけるコヒーレンスの役割が明確になった。本研究成果はPhysical Review B誌に発表された。 レーザー発振に関して,光と物質の超強結合下においては,一般に高調波が発生し双安定性も得られることが昨年度までに判明しており,この成果がPhysical Review A誌にて出版された。高調波解の安定性解析を進めている。 光と物質の相互作用によって,電磁場が熱平衡状態において自発的に振幅を獲得する超放射相転移は,熱力学と量子電磁力学が絡むコヒーレント現象として知られる。本年度は,この超放射相転移が期待できない超伝導回路構造を比較的広い範囲で示しただけでなく,静磁場下ではあるが,超放射相転移が起こりうる回路構造を見出し,理論的にその検証を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の引き続き,「電子正孔光子系」,「レーザー系」「共振器QED系」の3つのモデルを対象に研究を推進する計画で進めた。本年度も,いずれのモデルの解析も進展したので,「おおむね順調に進展」と言える。とりわけ,レーザー系を非平衡な量子熱力学系としてとらえた場合,「仕事」と「熱」の切り分け方が重要であることを示すことができたのが大きな進展である。その切り分け方の処方箋を明らかにすることが重要な課題であることが明確になった。また,超放射相転移の出現可能性と不可能性についても,共振器QED系から超伝導サーキット系も含めた広い系で検討し,理解が深まったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究成果を基にして,非平衡量子系における巨視的量子現象の研究を継続して推進する。まず,量子熱機関の出力エネルギーを仕事と熱にどのように分解すべきかについて,レーザー系の具体的モデルで解析を行うとともに,一般論の構築を試みる。量子マスター方程式と量子レート方程式という二つの記述方法によって,通常の熱力学との比較を進める。次に,量子コヒーレンスをリソースとする熱機関の解析および量子コヒーレンス形成のための「逆熱機関」の設計と解析を,具体的モデルと一般論の両面から行う。 さらに,超放射相転移に関しては,外部からの静磁場が無い場合であっても,マクロコヒーレンスが形成される相転移を探索する。あるいは,そのような相転移が生じ得ないことを理論的に証明できるかどうかも検討する。 超強結合下でのレーザー発振については,複数の共振器モードと原子準位を考慮した現実的な系を想定して数値計算し,従来とは全く異なるレーザー発振や非平衡相転移現象を探索的に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
異動を考えていた研究分担者の1名が,研究代表者と同じ機関に属したままであったため,当初に必要と考えていた経費を節約することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究エフォート率の高い研究分担者の1名(静岡大学)が,大きな額の研究費を使って,非平衡量子系を数値シミュレーションするための高性能計算機システムを購入する予定である。各論から一般論を構成する際は,解析計算だけでなく,具体的なモデルでの数値計算シミュレーションは欠かせないので,研究推進として有効である。
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