研究課題/領域番号 |
26287088
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 正仁 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70271070)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 冷却原子気体 / 自発的対称性の破れ / ボーズ・アインシュタインの凝縮 |
研究実績の概要 |
本年度の主な研究成果は次の3件である。 1.質量がゼロの粒子が量子揺らぎで有限の質量を持つことがあるが、量子揺らぎの効果は非常に小さく、観測は困難であった。我々はスピノルBECではqNGボソンの出現エネルギーギャップが系のゼロ点エネルギーの百倍にもなり、実験的観測がかのうであることを示した。さらに、このモードの伝播速度は量子揺らぎで減少することがわかった。この仕事はPhysical Review Letters 誌に出版された。 2.同種ボソン系において、粒子間相互作用の強さを大きくすると、無限個の離散スケール不変な3粒子束縛状態(Efimov状態)が現れる。Efimov状態は、くりこみ群のリミットサイクルによってその普遍性が特徴づけられるという点で、ユニークな系である。冷却原子系において、Efimov状態の3体パラメータ普遍性と呼ばれる新たな普遍性クラスの存在が実験的に発見された。我々は、この普遍性クラスと、リミットサイクルとの関係を明らかにした。この仕事は、Physical Review Letters 誌に出版された。 3.人工ゲージ場下の冷却原子系の示す量子スピン・ホール物理における相互作用効果を研究できる例として、我々は、二成分ボース気体に反平行な人工磁場を印加した時間反転対称な系を解析し、分数量子スピン・ホール状態が成分間斥力相互作用の非常に強い領域まで安定に現れること、成分間相互作用が引力の場合には二成分の粒子がペアを組んだ厳密な基底状態が得られることを示した。この仕事はPhysical Review A 誌に出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、当初計画通り冷却原子気体に現れる新奇な量子現象の探索を引き続き行った。特に、平均場では質量を持たないモードが量子補正を受けて質 量を獲得するいわゆる擬南部ーゴールドストーンモードが、スピノールボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)で観測可能であることが明らかに なったことは、今後の実験の方向の指針になると思われる。また、2粒子が束縛状態を持たない領域で3粒子が束縛状態を持つエフィモフ状態に関して は、それを特徴づける3体パラメータが原子種によらない普遍的な値を持つことが明らかになった。その物理的起源の繰り込み群的な理解が得られたこ とは当該分野の一里塚になったと思う。昨年来の取り組みである時間反転対称の系の分数量子ホール状態が安定であることが数値的に見出されたことは 大きな驚きであり、今後引き続き明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に引き続き、時間反転対称の量子ホール状態の安定性の物理的起源の解明を引き続き取り組む。特に、2成分間の相互作用が成分ない相互 作用と同じオーダーになるまで、それぞれの成分の分数量子ホール状態が安定に存在することは直観に反する不思議な現象であり、本年度はこれを Chern-Simons理論などの有効理論を使って解析的に研究する。本年度はさらに、ボース・フェルミ混合気体の研究に着手する。冷却原子気 体では、ボースーフェルミ気体間の相互作用をフェッシュバッハ効果によって制御できるので、それを利用することによってスピン流を制御できる可能 性がある。ボース・フェルミ混合気体は実験的には世界中で実現されており、また、最近は輸送現象の実験も可能になりつつあるので、実験的観点から の意義があると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年10月にブラジル・サントスで開催される国際会議の招へいを受け参加する予定だったが、学内での用務と重なったためやむをえずキャンセルした。 これによって当初の使用計画が変更となり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度も欧米の国際会議への参加が複数回予定されているため、そちらで使用する計画である。
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