本研究は「パラ水素結晶中のラジカル分子を磁気センサとする電子の電気双極子モーメントの探査」と題し、電子固有のeEDMの存在を実証するために、不対電子を有する極性ラジカル分子をp-H2結晶中に取り込み、eEDMのシュタルクエネルギーに起因する熱的状態分布数の変化を、検出しやすい別の物理量の変化として観測することを目標としている。HgHこの一連の実験過程の中で、極性分子の結晶内の配向を外部電場によって、特定の空間方向にそろえ、また、一気に反転させることが要求される。その上で、さらに分子内電子スピンの配向についても、外部磁場を使って同空間方向に沿って順方向と逆方向に反転させる必要がある。そのために平成28年度は主として、昨年度作成した分子の配向を直接モニターするための赤外レーザー分光システムを用いて、パラ水素結晶に閉じこめた極性分子の配向制御に関する実験に取り組んだ。その結果、CH3F分子の分子軸は事前の予想に反して、結晶のc軸に沿わず、60度も傾いていることを見いだした。この実験事実をパラ水素結晶格子が作る空孔モデルで説明した。 磁気特性に関しては、パラ水素結晶に不純物としてわずかに混入しているオルト水素の核スピンI=1に由来する磁気モーメントの存在が、eEDM測定に影響することから、分子周辺のオルト水素の局在性についての情報が必要となるが、高分解能赤外レーザー分光スペクトル測定の結果、パラ水素結晶に取り込んだeEDM測定対象分子の最近接サイト、第2近接サイトを占有するオルト水素の個数を決定することができるようになった。また、オルト-パラ水素間の核スピン変換が対象分子の永久電気双極子モーメントによって、大幅に縮まることも見いだしたので、対象分子を取り巻くオルト水素の磁気モーメントの存在が磁気光学効果に与える影響を定量的に計算する根拠を得た。
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