研究課題/領域番号 |
26287092
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 和彦 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10335193)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 物理定数 / イオントラップ / 周波数標準 / 高性能レーザー |
研究実績の概要 |
イッテルビウムイオン(Yb+)の光時計の基準となる吸収線(時計遷移)について、磁場に鈍感な奇数同位体171を用いて, 2S1/2-2D3/2時計遷移のスペクトルを単一イオンで獲得する方法を確立した。磁気量子数の異なる5つの成分を周波数軸上で分離し、それらの中央にある磁場に鈍感な成分を同定した。その成分を高分解能で分光し、イオンの運動により発生するサイドバンドを分離してドップラーシフトのないキャリアを抽出した。分解能は現在1.5 kHzである。 光時計の不確かさを評価は、まず同じ遷移の光時計を2台構築して相互に比較して行う。比較用の第2イオントラップ装置を立ち上げ、超微細構造がなくレーザー冷却が簡単な偶数同位体174を用いて、2S1/2-2D5/2時計遷移のスペクトルを単一イオンで検出した。 周波数比を計測する光周波数コムは、ピエゾ素子を高速で制御可能としたアクチエーターをモード同期チタニウムサファイアレーザーに導入し、時計レーザーに光コムを完全に位相同期させる技術を確立した。これにより周波数比計測の高速化を可能とするとともに、離れた波長のレーザーのスペクトル線幅を比較し評価することが可能となった。この技術により時計遷移へ周波数安定化されるレーザー(時計レーザー)の性能評価が進み、疑念があった制御回路の問題が明らかになった。時計レーザーは光共振器の共鳴へ高速制御を行うことによって、そのスペクトル線幅が狭窄化される。このとき用いられる制御回路を改良し、光共振器の共鳴に対する相対線幅を30 Hzから10 Hz未満に改良した。 半導体レーザー直接励起Yb:KYWレーザーによるコムについては、雑音を低減してCWレーザーとのビートの検出に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁場に鈍感な同位体171を用いた単一イオン分光技術を確立できたことは、大きな進展である。また、第2トラップ装置が立ち上がり、光時計の不確かさ評価に関する準備は進んだ。新しいイオントラップ電極の設計は積み残した。 光周波数コムの完全な位相同期を実現したことは、周波数比測定の高速化以前に、時計レーザーの改良に貢献する強力な評価ツールを手に入れたことになる。その時計レーザーの改良については、制御については改良が進んだ。光共振器の防音、除振、および長時間の安定化に関しては準備段階にとどまったため、翌年度の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに検出に成功している2S1/2-2D3/2、および2S1/2-2D5/2時計遷移のスペクトルを用いて、光時計を構築する。2台のイオントラップ装置を用いて同じ遷移どうしを比較し、不確かさを評価する。 完成した周波数比計測装置を用いて、両遷移の周波数比を測定するとともに、異なる遷移の比較による不確かさ評価の方法を確立する。そして、当初の目標である、1つのトラップ中の1個のイオンを用いた複数の光時計の構築と周波数比計測、その不確かさ測定へ研究を進める。 平行して時計レーザーの線幅と長期的な周波数安定度の改良を、周波数の基準として用いている光共振器の改良を中心に進める。時計レーザーの線幅をHzレベルに改良し、光時計としてもっとも小さな不確かさが見込め、微細構造定数の変化に対する感度も最大である2S1/2-2F7/2遷移の光時計構築を進める。その後、この遷移を含む不確かさ評価と改良、周波数比計測を着実に進めていく。周波数比の繰り返し計測を容易にするためにも、半導体レーザー直接励起Yb:KYWレーザーによる長時間連続運転可能なシステムの構築を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
光共振器を設置する除振台の架台を発注する予定であったが、見積もりを取ったところ予想以上に高価で、今年度の予算では不足することが判明した。次年度予算とあわせて購入することにより、仕様を落とすことなく購入することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
上記架台の仕様は、見積もり依頼時点ですでに固まっていたが、この機会に設置場所の確保等、細かい点まで詰めてから、発注することとした。遅くとも5月には発注する。
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備考 |
研究室のホームページには本研究に関する記載が少ないので、新しいページの準備を進める予定である。
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