研究課題/領域番号 |
26287093
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
香月 浩之 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (10390642)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | コヒーレント制御 / 励起子ポラリトン |
研究実績の概要 |
本年度は微小キャビティ中に有機結晶を作製し、その励起子バンドとキャビティフォトンモードが結合したキャビティポラリトン状態の作製と評価を目標に研究を行った。特定波長領域で高い反射率を持ったDBRミラーを外注によって作製した。これらを2枚、向かい合わせに重ねあわせ、治具によって固定し、その隙間に毛細管現象を利用してアントラセンの飽和溶液をしみ込ませ、溶媒を蒸発させてアントラセン結晶の作製を行った。厚みの調節は治具を締め付けるトルクの強度によってある程度可能である。得られた結晶は数十~100μm程度のサイズであり、顕微観測では非常にきれいな結晶が得られた。厚さの評価はキャビティを破壊してからの測定しかできていないが、数百nm~1μm程度と評価された。また、自動回転ステージと分光器を組み合わせて、角度依存の蛍光スペクトルを測定できる装置およびプログラムを作製し、実際にDBR-アントラセン結晶結合系で角度依存の蛍光分散スペクトルを確認することができた。角度依存の蛍光を集光して分光器に入射する際、直入射では光学系が煩雑になり、自動化が難しいため、ファイバー入射ポートを購入し、全自動で角度分散スペクトルが測定できる装置を完成させた。測定の結果、偏光方向に応じて、a軸方向のポラリトンとb軸方向のポラリトンを確認した。現在結晶の厚さの非破壊評価及び最適化が課題となっており、それを今後の課題とする。 これとは別に、二次元波面整形装置を用いた、任意の位相分布を持った集光スポットを生成する実験も行った。将来的にキャビティ中でΛ遷移を起こす際に利用する予定である。評価のために固体水素結晶をターゲットとして、振動励起状態の分布をラマン遷移によって作製した。異なる相対位相差で複数のスポットを励起することにより、異なる位相で振動する波動関数の分布を可視化することに成功した。本結果は現在論文投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結晶の厚みを評価する手法について、現在よい手法が思い浮かばず、できた所勝負な点があり効率的な研究手法とは言いがたい点がある。今後の改善が必要である。また、アップコンバージョン測定系に関しては肝心の光源が手元になく、ペンディングとした。今年度には準備できるので、本年度中に完成させる予定である。それ以外では、角度依存蛍光スペクトルの自動測定装置は動作している。 一方、任意の位相分布を持った励起パルスの評価実験は順調に進み、論文投稿の段階まで進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度には、昨年度に構築した角度分解蛍光測定装置を利用したDBRキャビティの評価に基づき、より効率よく光と励起子が結合したサンプルをつくるための結晶作成技術の改善を進めていく。また、アントラセン以外のTDAF等の試料も利用して、効率よく強結合系を作製したい。 まず、蛍光角度スペクトルの励起強度依存性の測定を行う予定である。過去の報告から、しきい値以上の強度で励起した場合に、k=0からの光放出が強くなる結果が報告されており、同じ現象を観測することが第一段階である。 次にエネルギー緩和過程の時間ダイナミクスに関する測定を行う。時間スケールに応じて二つの手法を用いる予定であり、長い時間の振る舞いはTCSPC(時間相関単一光子計数)ユニットを用いて測定を行う一方、1ピコ秒程度の時間で起こる速いダイナミクス過程に関しては、アップコンバージョン分光系の構築を行う。フェムト秒再生増幅光源が本年度7月以降使用可能となる予定であるため、その出力光を利用して、結晶励起用のポンプ光と時間遅延をかけた時間分解用のゲート光を準備して、測定に用いる。微弱光の計測には光電子増倍管を用いる予定である。前述のしきい値の上と下で、蛍光の時間的振る舞いに変化があるかどうかを重点的に調べる予定である。
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