研究課題/領域番号 |
26287095
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
古川 義純 北海道大学, 低温科学研究所, 特任教授 (20113623)
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研究分担者 |
佐崎 元 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60261509)
長嶋 剣 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60436079)
村田 憲一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60646272)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 氷結晶 / 不凍タンパク質 / 結晶成長 / 反射型干渉顕微鏡 |
研究実績の概要 |
不凍(糖)タンパク質(Antifreeze Glycoprotein(AFGP)、またはAntifreeze Protein(AFP))を含む過冷却水中での氷結晶の自由成長実験は、これらのタンパク質分子の氷結晶成長に対する制御機構を解明するために最も基礎となるもので、結晶の外形が成長条件によりいかに変化するか、さらには結晶成長速度を精密に測定することが極めて重要である。 前年度までに開発した氷結晶成長装置により、AFP Type IおよびAFP type IIIのタンパク質試料に対して氷の自由成長実験を行った。双方の試料とも、成長する氷結晶は、氷ベーサル面、氷ピラミッド面で囲まれる多面体の結晶が生成した。さらに、この氷結晶に対して成長速度の精密測定を開始した。成長速度の精密測定は、氷結晶の成長界面から反射する光によって生じる反射干渉縞を使うことで可能である。しかし、極めて光反射率の低い氷・水界面(ガラス表面での光反射係数の1/500以下)からの反射光の強度は極めて微弱である他め、十分なコントラストの反射干渉縞を生成することは通常極めて困難である。本年度に整備した位相差干渉顕微鏡装置では、初めてこのような微弱反射光による干渉縞の生成に成功した。 氷結晶成長装置と新しい顕微鏡とを組み合わせることで、氷ベーサル面については反射干渉縞の観察を十分に可能とする光学条件を達成できることが確認された。一方、その他の界面については、今年度中にはこの条件を実現できていないので、次年度の課題となる。 一方、従来型の透過型干渉顕微鏡による結晶成長速度や結晶の外形の過冷却度・濃度依存性の測定も継続して推進した。この実験では、タンパク質資料としてAFP type IIIを使用した。特に、結晶の外形の温度・過飽和度依存性について、結晶形と成長条件の関連を示すダイアグラムの作成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に予定していた、位相差反射型干渉顕微鏡の整備を実施した。氷・水の界面のように光の反射係数が極端に小さいと、試料面からの反射光強度と参照ミラーからの反射光強度に大きな差が生じる。これは、参照ミラーの反射係数はガラス面の反射コーティング処理である程度調整できるが、氷界面お反射係数はこの調整範囲より桁違いに小さい。このため、通常の方法では、両方の反射光強度の差を小さくすることが困難で、十分なコントラストの干渉縞を得ることができない。本課題では、光の偏光特性を使うことでこの問題を解決することができると予測し、その光学系を構築したところ、絶対的な強度は小さいものの、十分なコントラストを持つ干渉縞が生成できることを確認した。これにより、本課題の研究を可能にするための最大の関門を越えたことになる。 この措置により、氷ベーサル面については良好な干渉縞が取得されることがあきらかになった。一方、ベーサル面以外の界面については、干渉縞の取得には至っていないが、現状の氷結晶成長装置の改良により実現可能と予測される。 以上のことから、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに整備が終了した位相差反射干渉顕微鏡により、各結晶界面の成長速度の精密測定実験を継続する。これにより、AFGP及びAFP分子の結晶成長制御に対する機能が、その分子が吸着している面方位ごとに異なる(すなわち面方位依存性)ことを明確に示すことができる。別に取得されている結晶外形の過冷却度・濃度依存性のデータと合わせることで、これらのタンパク質が生体の凍結抑制機能を発現するメカニズムについて、結晶成長という物理的視点での解釈が初めて可能になる。 また、前年度に準備を進めた、蛍光ラベルで修飾したタンパク質分子を使うことで、蛍光による界面での分子も吸着挙動及び界面前方での拡散の様子を可視化する実験を継続する。この実験には、自由成長装置ではなく一方向成長装置を使用するが、この実験装置については既に現有しており、実績もある。この測定では、界面でのタンパク質の脱着過程や界面前方での拡散過程などの精密な解析が可能である。 また、同様に蛍光ラベルで修飾したタンパク質分子により、氷・水界面に吸着した個々の分子の挙動観察を目指す実験を推進する。この観察は極めて困難であるが、実現すれば、成長速度の測定結果とタンパク質分子の挙動との関連について、初めて具体的な議論をすることが可能となる。従来は、個々のタンパク質分子の界面での挙動と氷結晶成長機構との関連を直接議論できるような実験は極めて困難とされており、実現した例はない。しかしながら、本研究課題では、最終年度にあたり、この困難な課題に挑戦する。この実験の目処が立つと、新たなブレークスルーを導く大きな可能性を秘めている。 以上の実験成果をもとに、最終年度にあたり、論文の発表、および国際会議等での発表などを推進し、研究の最終とりまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に研究補助員を雇用することを計画して、平成26年度末にそのための経費を繰り越した。しかしながら、予定していた研究員の就職先が急遽決定したため、雇用できなくなったために、経費の使用額が予定より少なくなり、次年度使用額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度までに実施した研究成果をもとに、蛍光ラベルをつけたAFP分子を用いて氷結晶成長界面での個々の分子の吸着挙動に関する実験を開始している。この実験は、次年度の本格的な実験を行うが、氷と水の界面は光の反射率が低いため、この界面でのタンパク質分子挙動をより高感度で可視化するには、現有の顕微鏡の性能を改善する必要があることが明らかになっている。このためには、顕微鏡に使用している個々の光学素子の性能を吟味して、より高性能な素子に置き換えていくしかないが、このための経費としてこれを使用する。光学素子は大変高額であるため、本課題の経費だけでは全てを賄うことはできないが、大学の研究費などからの追加の支出も予定している。
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