研究課題/領域番号 |
26287095
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
古川 義純 北海道大学, 低温科学研究所, 名誉教授 (20113623)
|
研究分担者 |
佐崎 元 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60261509)
長嶋 剣 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60436079)
村田 憲一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60646272)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 凍結抑制タンパク質 / 氷結晶 / 界面吸着 / 不純物効果 / 成長速度の促進 / 成長速度の振動 |
研究実績の概要 |
国際宇宙ステーションの日本実験モジュール「きぼう」において実施した、Ice Crystal 2プロジェクトの結果をもとに、氷の結晶成長に対する新しい不純物の効果を説明するモデルを構築した。宇宙実験では、不凍糖タンパク質の効果で氷のベーサル面の成長速度が3-5倍も促進されることと、成長速度が周期的に変動することを発見した。これは、従来知られていた結晶成長に対する不純物効果(吸着した不純物分子が成長ステップをピン留めするため、成長速度が抑制される)とは、完全に異なっている。 成長速度の促進は、ベーサル面上の成長ステップのエッジ面に不凍糖タンパク質が優先的に吸着すると、このタンパク質分子が新たなステップの供給源として作用するとことによって起きると考えられる。このモデルは、不凍糖タンパク質が氷のプリズム面とピラミッド面に優先的に吸着し、ベーサル面には吸着しないという、これまでの知見と矛盾するものではない。 成長速度の振動については、この現象が熱対流などの流れの影響が完全に排除される微小重力環境で観察された。このことは、成長界面へのタンパク質分子の吸着と結晶成長に伴う線熱の放出による界面温度の変動が相互作用することで振動が起きることを強く示唆する結果である。 さらに、ベーサル面の成長速度の促進は、一見このタンパク質の生体の凍結抑制機能と矛盾するように見える。しかし、実際には氷結晶の多面体成長の形態発展を考慮すると、ベーサル面の成長促進は凍結抑制機能の本質を担っていることが明らかになった。 このような成果の直接的な証拠を示すためには、氷と水の界面での分子レベルでのステップ挙動の可視化、さらに吸着したタンパク質分子の可視化が重要である。この実験を行うための観察光学系の開発も軌道に乗り始め、これに必要な消耗品等を購入した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
不凍糖タンパク質の効果により、氷のベーサル面の成長速度が促進されたり、振動したりすることは、これまで知られている結晶成長に対する不純物効果とは完全に一致しない、新たな効果である。このような効果が存在することは、本研究課題により新たに確認された成果である。特に、タンパク質などの生体高分子が不純物として作用することがこのような新たな現象を引き起こす要因と考えられるが、生体内での結晶の生成機構の解明とも関連して極めて重要な発見である。 また、本研究により、成長速度の促進と振動のメカニズムに対する新たな提案がなされたことも特筆すべきである。この知見は、結晶成長に対する不純物効果に新たな発展の可能性を提示するものであり、高く評価されるものである。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究で示した不純物効果による成長速度の促進と振動のメカニズムを解明するためには、結晶成長界面での成長ステップや吸着した分子の構造や挙動を分子レベルで観察することがカギとなる。特に、本研究では氷と水の界面(固液界面)での観察を行う必要があるが、氷と水では屈折率の差がごくわずかであり、観察は極めて困難でなる。しかし、本研究では、この観察を可能とするための光学系や結晶成長装置の開発も進めており、ようやく界面成長ステップの観察が可能になりつつある。今後、この実験をさらに推進することにより、新たな研究の展開が期待される。 また、ベーサル面上での不凍糖タンパク質の吸着が成長速度の促進や振動をもたらすことを、数理科学的な手法で解析することも極めて重要な研究の方向性である。従来の不純物効果により結晶成長が抑制されるという場合には、ここ数年の間に数理モデルの構築やシミュレーションが行われるようになっている。しかし、本研究で得られた成果を取り入れたモデルの構築は、未だ成し遂げられていない。すでに、研究協力者との間での議論を開始しているが、今後推進すべき課題である。 また、生体の凍結抑制を司るタンパク質の機能性の解析という視点でも、本研究の成果により新たな解釈の余地が示された。ここで扱う系は、生体高分子による無機結晶の成長制御という、いわゆるバイオクリスタリゼーションの本質に迫るものでもある。この視点での研究の進展は、応用とも直結するものであり、発展が大いに期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
論文の投稿から受理までの時間がかなりかかったために、今年度中に論文発表が終了しなかった。このため、次年度に繰り越した。また、次年度には本研究課題に密接に関連する国際会議が2件開催され、それらに招待講演を依頼されている。この国際会議に出席するための経費が必要であり、繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
論文投稿を2件予定している。このための投稿料、英文査読の経費を計上する。 ま他、2017年8月にイスラエルで開催される3rd Symposium on Ice Binding Proteins(IBP3)に招待講演を依頼されており、参加するために計上している。また、2018年1月にスイス・チューリッヒで開催される、14th International Conference on Physics and Chemistry of Iceにおいても招待講演の依頼を受けることになっており、参加のための経費が必要である。
|