研究課題/領域番号 |
26287096
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川勝 年洋 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20214596)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ソフトマター / 膜 / 高分子 / ハイブリッドモデル / 自己無撞着場理論 |
研究実績の概要 |
高分子と界面活性剤の複合系は、マルチスケールの現象が共存する代表的なソフトマター系である。申請者の研究グループでは、これらの系のミクロな構造の寄与を取り入れつつ、粗視化されたスケールでの場の理論(密度汎関数理論)を構築してきた。本研究計画の目的は、この従来の研究の方針を一層推し進め、粒子描像と連続場の描像を組み合わせた「ハイブリッド密度汎関数理論」を一貫したコンセプトの元に定式化し、ソフトマターの基本的問題に適用することで、この方法論の正当性を証明することにある。従来の場の理論に導入されるミクロな情報としては、ダンベルやバネビーズモデルで表されるような高分子のモデルや球形のコロイド粒子のように単純な形状と構造を持ったものが主であったが、本研究ではより本格的なミクロなモデルを導入する。
具体的なテーマとしては、以下の3テーマを考える。 1) 高分子を内包する小胞の流動場中での形態変化:ドラッグデリバリーシステムにおける小胞を構成する膜をフェーズ・フィールド理論を用いて記述し、一方この小胞が内包する高分子を自己無撞着場で記述することにより、小胞全体の形態の変化を連続場-連続場ハイブリッド・モデルでシミュレートし、その流動特性を調べる。 2) 高分子を取り込んだ膜の構造変化:薬剤分子(高分子)を内部に取り込んだ膜を対象として、粒子-連続場ハイブリッド・モデルを用いた化学的なモノマーのシークエンスが明示的にモデルに取り入れられた形のシミュレーションを行い、薬剤分子が生体膜に取り込まれるプロセスについてのミクロな過程を解明する。 3) 棒状分子を内包する膜の構造と運動:棒状分子を内包する膜構造は、生物細胞の細胞骨格のモデルとして有用である。このような系に対して、連続場と粒子描像を用いたハイブリッド描像および粗視化分子モデルを用いたシミュレーションを行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定した26年度までの成果は、以下の通りである。1) 高分子を内包する小胞の流動場中での形態変化:小胞全体の形態の変化を連続場-連続場ハイブリッド・モデルでシミュレートし、周囲の流体のNavier-Stokes 方程式とカップルさせて解くことのできるプログラムの開発とテスト。2) 高分子を取り込んだ膜の構造変化:薬剤分子を取り込んだ膜を、薬剤分子のモノマーのシークエンスが明示的に取り入れた粒子-連続場ハイブリッド法でシミュレートする。3) 棒状分子を内包する膜の構造と運動:リン脂質分子の作る二重膜の中に棒状分子を取り込んだ系で、膜と棒状分子の相互作用を明らかにする。
1)に関しては、高分子を取り込んだ膜の場の理論および、流動場中での膜の運動のそれぞれに対する理論の枠組みとシミュレーションプログラムの開発に成功し、両者を組み合わせた「高分子を内包する膜の流動」のテストシミュレーションも成功した。2)については、粒子-連続体ハイブリッドモデルを用いて、膜の中に薬剤が取り込まれる過程のシミュレーションを実行できた。3)については、分子モデルを用いたシミュレーションで、棒状分子と膜を構成するリン脂質分子の相互作用パラメタを変化させることで、膜の曲げ弾性定数の変化を調べることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
1) については、高分子を内包した小胞の流動モデルのプログラムの並列化を含めたチューンアップを行い、本申請課題で今年度に購入予定のクラスタマシン上で高いパフォーマンスを発揮できるようにする。このプログラムを用いて、毛細血管に相当する円筒状の管の中のPoiseuille 流による小胞の運動と変形をシミュレートする。特に、Poiseuille 流の最大流速、管のサイズと膜のサイズの比、小胞を構成する膜の曲げ弾性定数等のパラメタの変化による小胞の流動と変形の振る舞いの変化を調べる。さらに、管の中を複数の小胞が接近して流れる場合のような小胞の多体系のダイナミクスに関しても、小胞同士の相互作用(近接相互作用および流体相互作用)に着目して解析する。周囲の流体が高分子溶液のような粘弾性流動の場合についても同様にシミュレーションを行うことにより、小胞を取り囲む溶媒の粘弾性緩和による流動の記憶効果が、膜の変形に対してどのような効果を及ぼすかを調べる。 2)については、各種のパラメタを変えて系統的なシミュレーションを実行する。特に界面活性剤分子としてはSDS 等の通常の界面活性剤をターゲットとした研究を実施する。 また、最終年度のH28年度は、研究対象として前年度までのSDS 等の通常の界面活性剤だけでなくPluronic のようなトリブロック共重合体や枝分かれブロック共重合体などの複雑な分子形状の界面活性剤も対象に加えて、分子アーキテクチュアの違いによる薬剤の受け渡しの容易さに対する影響を調べる。 3) については、多数の細胞骨格や液晶性の分子を含む膜構造の変形のダイナミクスのシミュレーションを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度年間を通じて雇用する予定であって研究協力者が、実際には平成26年10月になって初めて採用することが出来、このため人件費200万円の予算の約半分が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に雇用できなかった研究協力者の人件費余剰金を用いて平成27年度にアルバイトを雇用することで研究を促進する。また、人件費の未使用額の一部を平成27年度のワークステーションの購入費用に充当し、計算資源の増強を図る。
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