研究課題/領域番号 |
26287102
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武井 康子 東京大学, 地震研究所, 准教授 (30323653)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 非弾性 / ソリダス近傍 / 多結晶体 / 地震波減衰 / ポロエラスティック / 粒界滑り |
研究実績の概要 |
地球内部の3 次元地震波速度構造から地球内部の温度分布や流体分布を定量的に推定するためには、岩石の非弾性特性の解明が不可欠であるが、実験データが十分でなく未知の部分が多い.我々は,有機物多結晶体を岩石アナログ物質として用い,試料のヤング率Eと減衰Q-1を6桁の広周波数帯域(100-0.1 mHz) で精密に測定できる強制振動型の変形実験装置を開発し、非弾性の解明を目指している。これまでの実験から,地震波帯域では,マックスウエル周波数による単純な相似則が成り立たず、温度が融点に近づくほど、あるいは粒径が大きいほど減衰が大きくなる方向に相似則からのずれが拡大するという系統性があることも分かった.そこで,本研究ではさらに部分溶融する温度までの実験を行い、温度によるずれの増大は、融点を超えるまで連続的に続き、融点を超えてメルトが出来ても非弾性特性には不連続な変化が生じないことを明らかにすることができた.また、融点を超えてメルトが出来ると、ポロエラスティックな効果に依って不連続な速度低下が生じることもわかった。本実験ではポロエラスティックな効果は1MHzの超音波に対して「緩和」状態にあり、それ以下の周波数帯域には緩和スペクトルを持たないことが分かった.従って,強制振動実験から得られた緩和スペクトルは、ポロエラスティック効果以外のメカニズム(粒界滑りなど)によるものと考えてよいことも分かった.本研究の結果は、融点に近い温度ではメルトが無くても地震波が低速度・高減衰になり得ることを示唆するもので,上部マントルの地震波速度構造を解釈する上で重要である。本研究ではまた、粒界滑りによる非弾性の新しいモデルを開発し、これを数値的に解いて、剛性と減衰を定量的に求めるところまで進んだ,
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
融点を超える温度までの実験を安定的に行うために,1)融点以上の温度で粒成長させた試料の作成と、2)メルトの蒸発を防ぐガスバリア性フィルムでの試料の密封が必要であった.1)では、粒成長の段階で漏れるメルト量を最小限に抑えることと、漏れた量の精密測定に工夫が必要であった.2)では、フィルムの存在による装置剛性の低下をできるだけ小さく抑えることに工夫が必要であった.最終的にはこれらの問題にうまく対処でき、本研究の最も大きな目標であった、融点直前、直後の物性を温度の関数として連続的に測定することに成功した.非弾性が融点で連続的に変化することは、これまでの予想に反する重要な結果である。同様に,粘性についても、融点で連続的に変化することがわかり、この点に関してもこれまでの予想に反する結果を得ている。これらの結果は、メカニズムヘの制約条件となるため重要である.さらに、超音波を用いた測定から1MHzがポロエラスティック効果の緩和状態であることも分かり、この情報もメカニズムについての重要な制約条件になる。
このような順調な結果を得ている一方で、融点以上の部分溶融状態での粒成長が試料にヒステリシス効果を生じ、この効果が試料毎にばらつくため、粒径依存性やメルト分率依存性がマスクされてしまうという、当初予想していなかった現象が観察された。この現象自体は興味深い現象であり、非弾性メカニズムの解明にも寄与する可能性のある大きな成果と考えているが,粒径依存性やメルト分率依存性を決定するためには、部分溶融を経験していない(すなわち、ヒステリシス効果の影響を受けていない)試料を新たに作成して実験を行う必要があることもわかった。
理論モデルは、用いた数値計算法の妥当性を確認する必要があるが,おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、粒径依存性やメルト分率依存性を決定するために、部分溶融を経験していない(ヒステリシス効果の影響を受けていない)試料を新たに作成して実験を行う。また、理論については,数値計算法の妥当性を確認するためのアイディアがあるので、これを実行する。これまでに得た成果は論文公表できる質の高い成果であると考えており、できるだけはやく論文にまとめる計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究支援員としてポスドク研究員一名をH26年10月から最終年度のおわりまで2年半雇用するための人件費を申請したが,実際に支給されたのは2年弱分であった。そこで、この支援員と話し合い,本人の都合も考慮して、雇用期間を平成27年度の7月から本課題の最終年度までに再設定することとなった.このため、本年度予定していた人件費は、次年度以降に使用することにした.本年度はこの支援員が研究生として本課題に無償で協力してくれたため、研究の遅れは生じなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の7月からポスドク研究員一名を研究支援員として雇用し,代表者および大学院生一名の3人体制で非弾性実験を進める。実験に必要な消耗品費も十分あり、様々な実験条件下での系統的な実験データを得る計画である。
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