研究課題/領域番号 |
26287103
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大湊 隆雄 東京大学, 地震研究所, 准教授 (70322039)
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研究分担者 |
井口 正人 京都大学, 防災研究所, 教授 (60144391)
安田 敦 東京大学, 地震研究所, 准教授 (70222354)
金子 隆之 東京大学, 地震研究所, 助教 (90221887)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 無人ヘリコプター / 火山噴火 / 火口近傍観測 / 災害軽減 / 火山性地震 / 空中磁気 / 地殻変動 / 赤外画像 |
研究実績の概要 |
火山の火口近傍は観測上の重要地点である.本研究は,既存の自律型無人ヘリをベースに,空中からの映像やデータ収集に加えてセンサー設置や火山灰などの試料採取を遠隔操作で行える「無人ヘリ火山観測システム」を開発して火口近傍へ安全かつ自在にアクセスできる方法を確立し,火道内の物理プロセスの解明と噴火予測精度の向上を目指す.活発な活動を繰り返す桜島や最近噴火した霧島,口永良部島を主実験場として無人ヘリ観測手法の改良・高度化を進めることを目的とする.平成27年度の成果は以下のとおりである. (1)これまでの観測モジュールの伝送システムは通信速度不足と大きな消費電力のために,一部のデータを間欠的に送ることしかできず,リアルタイム性が不十分であった.この欠点を克服するため以下の2つの改造を施した.1)データ基板を改良し,組み込み型の携帯通信チップを用いることで,低消費電力化と通信の高速化を実現した.低消費電力化した地震計は桜島観測で使用した.2)上下動記録のみを必要とする観測においては,消費電力の大きい加速度計でなく,電力を消費しないムービングコイル型の速度センサーを使用する.これにより,低消費電力型基板よりも更に消費電力を抑えることができる.必要となる太陽電池パネルの数を減らすことができるため,風にあおられて飛ばされる危険が大幅に減少する.このタイプの地震計は口永良部島において使用している. (2)4月と9月に,口永良部島において地震計の設置,空中時期測量,画像撮影,ガスサンプリングを実施し,噴火直前の地震活動の変化や10月以降の火山活動鎮静化を多項目の観測から確認することができた.また,11月には桜島において地震観測モジュールの再設置を行った.以前設置した地震計モジュールを回収し,上述の低消費電力型地震計に置き換えることで,連続観測データを準リアルタイムで得ることが可能になった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,(1)無人ヘリ火山観測システムの開発と改良,(2)活動的火山における設置実験,(3)火道浅部のマグマプロセスの検討,の3点を行う計画であった.このうち,(1)については観測モジュールの伝送システムの低消費電力化や消費電力の少ないセンサーの採用,太陽光パネル数の削減等,観測目的に応じた改良を施すことができた.これまでのロガーでは一部のデータを間欠的に送ることしかできなかったため,研究上重要な連続データを得るためにはモジュールの回収を待たなければならなかった.また,リアルタイム性に劣るため,防災的な応用には向いていなかった.これに対して今年度改良を加えた観測装置は,連続データをわずかの時間遅れで送ってくるため,古いモジュールの欠点はほぼ解消したと言える.(2)については,桜島において低消費電力基板を用いた観測モジュールを設置し,以前の観測装置では不可能だった連続データの準リアルタイム取得に成功している.また,口永良部島においては,低消費電力化した基板に加え,更に,ムービングコイル型の電力消費のないセンサーを採用した観測モジュールを作成して火口近傍に設置し,現在も順調に連続データを得ることができている.観測データは関係機関に送られ,防災上の判断材料にも用いられている.(3)についても,口永良部島の火口近傍に地震計を設置できたことにより,噴火前後の火口周辺の地震活動の変化をとらえることに成功している.このような噴火前の地震活動の変化は火道浅部での物理プロセスを理解するうえで重要な知見である.以上から,研究の目的はおおむね順調に達成されつつあると言える
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今後の研究の推進方策 |
昨年までの成果を踏まえて今年度の目標としていた観測モジュールの伝送システムの改良は,今年度中にほぼ実現した.一方,ムービングコイル型の速度センサーを採用することで新たな問題点も明らかになった.加速度センサーの場合は,設置された地震計が水平でなくても加速度記録のDC成分からセンサーの傾斜がわかるため,水平に設置できたか否かはデータの質に致命的な影響を与えることはない.これに対し,ムービングコイル型のセンサーは鉛直方向に設置することを前提として設計されているため,設置時の傾斜をできるだけ小さくする工夫が必要であり,今回の設置を困難にした.また,ムービングコイル型センサーの水平動成分はわずかの傾斜でも記録に大きな悪影響があるため,現状の設置方法では対応できない.地震記録のS波成分同定に不可欠な水平動成分を使用できないことは地震観測上の大きなハンディとなる.今年度は,設置時にセンサーを水平に保つ機構の開発を進め,水平成分も使用できるように改良することを目指す. 地殻変動観測モジュールについては,現在のモジュールの形態では観測精度が上下方向で2-3cm,水平方向で4-5cm程度であることが明らかになっていたが,平成27年度中は地震観測モジュールの改良に専念したため,手付かずであった.今年度は地殻変動観測モジュールについても改良を進める.アンテナ取付け位置の改良や,ノイズ遮蔽版の追加などにより精度向上を進める予定である. 以上の機器開発を進めるとともに,桜島の観測に加えて平成26年8月と平成27年5月に噴火した口永良部島でも観測を継続し,データ蓄積を進める.無人ヘリ観測により得られる火口近傍データを,火山ガスなど他の観測データと比較することにより,火道浅部の物理プロセスを推定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年5月29日に口永良部島の新岳が噴火した.噴煙は高度9000mに達し,居住地域に達する火砕流も発生したことから,全島民は島外に避難することを余儀なくされた.噴火により,口永良部島新岳火口付近の観測網が被災し,火山活動を把握するために不可欠な火口付近の観測データが得られない状況になった.噴火の危険がある中,山頂付近における観測を実施する唯一の手段は,無人ヘリコプターを活用することであった.口永良部島噴火の火山学的な重要性と社会的影響を考え,今年度は口永良部島での無人ヘリ観測を優先的に行うこととした.無人ヘリコプターによる観測を実施することのできるオペレーターは限られた人数しかいないため,口永良部島での観測を実施するためには,今年度予定していた桜島等における実験計画を縮小せざるを得なかった.桜島での観測を縮小したことにより,今年度の使用額が縮小して次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,主として以下の2つの観測機器の改良に研究費を充てる予定である.(1)地震観測モジュールの改良:平成27年度の成果により,地震観測センサーを設置時に水平に保つ機構が観測上重要であることが明らかになった.地震センサーの設置時に水平を保てるよう,小型・軽量のジンバル装置を開発する.(2)平成26年度までの成果により,地殻変動モジュール観測モジュールの精度が明らかになった.平成28年度は,地殻変動モジュールの精度向上のために,アンテナ取り付け位置の改良や,衛星信号の地面での乱反射に起因するノイズを軽減するための遮蔽板の追加などによる改良を進める.
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