本研究では、氷期気候変動についてのメカニズム解明を通じて、将来起こりうる長期気候変動についての知見を得ることを目指した。ターゲットとなる課題を次のように設定し、研究を実施した。 ・課題1:現在と最終氷期最大期(LGM)における平均的な気候状態の再現シミュレーション ・課題2:LGMから現在にかけての遷移過程(退氷期)の再現シミュレーション ・課題3:氷期における急激な気候変動(DOイベント)に着目した感度実験による仮説の検証 課題1については、LGMにおける海洋炭素循環モデリングに大きな進展があった。これまで開発を進めてきた海洋堆積モデルが完成し、海洋大循環モデルへの組み込みも完了した。それにより、これまでの海洋大循環モデル実験において陽に考慮されることが少なかった炭酸塩補償過程を直接考慮した実験が可能となった。今後、海洋炭素循環の果たす役割をより定量的に評価するためのツールとして利用できることが期待される。本課題終了後も、現在の大きな謎として残されている氷期大気中二酸化炭素変化に着目し、今回開発したモデルを用いて氷期海洋炭素循環の再現シミュレーションを継続していく予定である。課題2に関連して、簡易気候モデルMIROC-liteの改良を行い、風応力偏差によって駆動される近年の海洋熱吸収変化をMIROC5と同様に再現できることが確認できた。その結果を解析した内容を国際学術誌へ投稿し、本年度受理された。退氷期のシミュレーションについても、改良したMIROC-liteを用いて今後実施したい。課題3については、南大洋における海面熱条件と大西洋深層循環の強化の関連性について、熱条件を徐々に変化させる実験を通じて、「熱的閾値」の近くでは大西洋深層循環が多重解構造をとることが確認できた。今後調べるべき課題も残されたが、最終年度において、国際学術誌への掲載2件、学会発表7件の成果があった。
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