研究課題/領域番号 |
26287113
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
増永 浩彦 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 准教授 (00444422)
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研究分担者 |
篠田 太郎 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 准教授 (50335022)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 気象学 / 人工衛星 / 地球観測 / リモートセンシング |
研究実績の概要 |
本年度は、衛星シミュレータを用いた数値モデル検証手法開発に供する基礎研究調査の一環として、自由対流圏の水蒸気収束と熱帯対流レジームに関する衛星データ解析研究を行った。この解析の目的は、熱帯大気に特徴的な動的フェーズおよび静的フェーズの駆動・維持機構に関わる主要因を探るものである。 解析にあたり、孤立積雲レジームと組織化システムレジームを各々定義した上で、それぞれについて統計的時系列上にコンポジットした衛星観測データをもちいた。さらに大規模場平均水蒸気収支を制約条件として、自由対流圏水蒸気収束、雲底水蒸気上昇流、自由対流圏降水効率 (FTPE)を導出した。解析の結果、組織化された対流システムが発達する際は、FTPEと雲底水蒸気上昇流がそろって強化され、それに伴い降水は主として自由対流圏収束を水蒸気源として増大することを見出した。一方孤立積雲レジームでは、 自由対流圏の水蒸気は終始弱い発散を示しFTPEはほとんど変化しなかった。組織化システムレジームでは、大規模力学場の特徴は第一傾圧モードをおおむね反映しており、これは大規模力学場と湿潤対流に明確な協調関係があることを示唆している。水蒸気収束と湿潤静的エネルギー(MSE)収束にもとづく熱力学的な考察をもとに、組織化システムレジームは対流と大規模上昇流の自律的成長を促す機構を内包しており、その結果として動的フェーズがもたらされることが示唆される。孤立積雲レジームでは、浅い上昇流モードが終始卓越するため自由対流圏水蒸気が一貫して弱い発散を示すと理解された。孤立積雲レジームは自発的な成長を伴わず安定的に維持されると推測され、このことが静的フェーズの持続性を説明すると考えられる。これらの知見は、数値モデルにおける対流雲と大規模力学場の相互作用の再現性を検証するうえで、有用な観測的資料を提供すると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、衛星シミュレータそのものの開発・改良と、衛星データを用いた数値モデル検証の二つの柱からなる。平成26年度の研究は、もっぱら後者のテーマに属するものであった。研究代表者が開発を進めている新しい衛星データ解析手法を発展させ、数値モデル性能評価に結び付く一定の成果を得ており、その面で研究は順調な進展を見せていると言ってよい。一方、もう一つの柱であるシミュレータの改良については、本年度以降本格的に着手すべき課題として残されている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度では、多数の衛星センサを横断的に用いた解析を行い、熱帯域の雲対流と大規模力学場との相互作用をつかさどるメカニズム解明につながる成果を得た。この結果は、数値モデリングにおける熱帯気象場の再現性向上に向けた有用な知見を示唆する。平成27年度はその成果をさらに発展させ、衛星データ解析に基づく大気力学場の解析手法の開発・改良を進める。さらに、衛星シミュレータを用いた数値モデル検証研究として、CloudSat衛星搭載雲レーダとTRMM衛星搭載降水レーダなどを活用した雲微物理モデル検証手法の開発を進める。衛星レーダ・シミュレーションを雲解像モデル数値シミュレーションに適用することで、雲氷数密度の大幅な過小評価が判明しつつあり、このことは雲粒子ゾンデ等を用いた現場観測との比較からも裏付けられつつある。今年度は、運用開始後間もないGPM衛星搭載二周波降水レーダの新規使用も視野に、衛星シミュレータ活用法の新境地の開拓を期し研究を継続する計画である
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間全体にわたる研究費措置総額が申請額より大きく目減りしたため、申請時に予定していたデータ整備・解析補助者の雇用期間を短縮し、平成27年度以降に雇用開始することとした。そのため平成26年度では研究補助要員の雇用は行わず、衛星シミュレータによる数値モデル検証を想定した方法論の開拓を検討するための基礎研究に主眼を置いた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度以降、本格的な衛星シミュレータ利用研究を開始していく予定である。そのために必要なデータ整備・解析補助者の雇用を行う。限られた予算措置への対応策として26年度から短縮・先送りした形で当初の研究計画を推進する計画である。
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