研究課題
対流圏環状モード(対流圏AM: Annular Mode)は、対流圏中高緯度大気で最も卓越する変動成分で、南北両半球に存在し、それぞれ、北半球環状モード(NAM: Northern Annular Mode)、南半球環状モード(SAM: Southern Annular Mode)と名付けられている。本研究では、対流圏AMの変動メカニズムと、その予測可能性変動の実態及び要因について解析を行う。平成26年度は以下の項目について研究を行った。1.成層圏循環の予測可能性に関する解析:環状モードシグナルが顕著な成層圏循環の予測可能性変動の特徴を把握するため、7冬季分の気象庁現業一ヶ月アンサンブル予報データセットの解析を行い、成層圏循環予測の系統的誤差や予測可能期間の上限の季節内変動特性を明らかにした。2.2009年の北半球冬季に発生した成層圏突然昇温(SSW)期間中の予測可能性変動の解析:SSWは顕著なNAMシグナルの増大期と対応するため、2009年北半球冬季に発生した分裂型SSW期間について高頻度・大規模アンサンブル予報実験を実施した。その結果、この期間の成層圏循環の予測可能性は、SSW発生前に特徴的な時間変動を示すことが明らかになった。3.基準アンサンブル予報データセットの作成:気象研究所AGCMを用いて、2007年から2013年までの北半球冬季におけるSSW発生期間についてアンサンブル再予報を実施し、この期間の基準アンサンブル予報データセットを作成した。4.NAMの形成維持メカニズム解析:再解析データを用いた解析により、NAMは主に停滞性波動による帯状風成分の加速によって維持されていることや、帯状風が総観規模波動を通して停滞性波動を励起する作用を持つことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
年度途中で気象研究所計算機システムの更新が実施されたため、北半球6寒候期(2007/08~2012/13年の10~3月)の全期間についてではなく、成層圏突然昇温発生期についてのみ、アンサンブル再予報を実施し基準アンサンブル予報データセットを作成した。また、更新期間中は、予報実験を実施する代わりに、気象庁一ヶ月アンサンブル予報結果を用いた成層圏循環の予測可能性に関する解析や、再解析データを用いてNAMの形成維持メカニズムについて解析を行った。
平成27年度以降は、以下の項目について研究を推進する。1.平成26年度末に導入された気象研究所新計算機システムに気象研究所大気大循環モデル(AGCM)と初期摂動作成プログラムからなるアンサンブル予報実験システムを導入し、予報実験環境を整える。2.基準アンサンブル予報データセットの作成:気象研究所AGCMを用いて、2001年から2006年までの北半球冬季における成層圏突然昇温発生期間についてアンサンブル再予報を実施し、この期間の基準アンサンブル予報データセットを作成する。3.NAM変動が成層圏から対流圏に下方伝播するメカニズムと、その予測可能性を明らかにするため、長期再解析データ及び、平成26年度に実施した2009年の北半球冬季における成層圏突然昇温期間中の高頻度・大規模アンサンブル予報実験結果を詳細に解析する。4.対流圏NAMが増幅する特定期を抽出し、その期間について、高頻度・大規模なアンサンブル予報実験を行い、NAMの増幅メカニズムを解析する。
平成26年度に実施したアンサンブル再予報実験で生成されたデータは、既存のRAID装置に収納可能な量であったため、予定していた磁気テープへの保存作業は実施しなかった。このため、大容量磁気テープ装置の購入費用、および、データ保存作業に関わる謝金分が未使用となり、次年度に繰り越した。
今年度は、大容量磁気テープ装置を購入し、アンサンブル再予報実験結果を収納する作業を実施する予定である。このため、繰り越した助成金は、大容量磁気テープ装置購入に必要な費用、およびデータ収納作業に必要な謝金分として利用する予定である。
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