2009年1月に生じた極渦分裂型の成層圏突然昇温(SSW)と、2010年1月に生じた極渦変位型のSSW発生期における予測可能性変動を明らかにするために、すでに実施した大気大循環モデル(AGCM)を用いたアンサンブル再予報実験結果を詳細に解析した。その結果、2009年SSWの予測可能期間は1週間程度と短く、しかも、SSWの生起時にアンサンブルメンバー間のスプレッドが急に大きくなることが明らかになった。一方、2010年SSWの予報期間は2週間程度と比較的長く、生起時のスプレッドも比較的小さい。 このような予測可能性の違いをもたらす要因を吟味するため、非発散順圧モデルを用いて、東西非一様なアンサンブル平均予測値を基本場とする力学安定性解析を実施した。その結果、予測可能期間の短い2009年のSSWでは、SSW生起時の上部成層圏で、1.0/dayを越える極めて大きな成長率を持つ不安定モードが存在することが明らかになった。一方、2010年SSWの場合、SSW生起時に、そのように大きな成長率を持つ不安定モードは存在しない。また、2009年のSSW生起時に得られた不安定モードでは波数2成分が卓越し、その位相は基本場とは東西方向に約90度ずれている。このため、この不安定モードが極渦分裂直前の基本場に重畳すると、極渦がさらに引き延ばされるか、あるいは、元に戻ることになる。また、この不安定モードは、アンサンブルスプレッドの第1主成分ともよく似ていることが確認できた。このため、2009年の分裂型SSWにおいて、SSW生起時にアンサンブルスプレッドが大きくなったのは、このような成長率の極めて大きい不安定モードと対応する予測障壁が上部成層圏循環に存在したためと考えられる。一方、2010年の変位型SSWの場合には、成層圏循環に予測障壁は存在しないため、予測可能期間も比較的長くなったと考えられる。
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