研究課題/領域番号 |
26287124
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
氏家 恒太郎 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40359188)
|
研究分担者 |
堤 昭人 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90324607)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ラマンスペクトル / 炭質物 / 摩擦発熱 |
研究実績の概要 |
当初の計画通り、炭質物と断層物質の混合試料を用いて摩擦実験を実施した。また、実験データを用いた有限要素法による数値計算を実施した。その結果、断層物質が500℃以上の急速加熱を受けかつ摩擦すべりによる粉砕化が進行すると、中に含まれる炭質物のラマンスペクトルの強度比が顕著に増加することが明らかとなった。この強度比の増加は僅か約10秒と極めて短時間で起こる。一方、加熱の程度が低い場合や粉砕化が進行しない場合、ラマンスペクトルの強度比はほとんど変化しなかった。これらのことから、断層における地震性すべり時の温度が500℃以上に達した場合、炭質物のラマンスペクトルは摩擦発熱の指標として有効であることが初めて実証された。 一方、今回の一連の摩擦実験で実証されたような炭質物のラマンスペクトル変化が実際の天然の断層で見出されるか探るため、炭質物を含む断層の調査を愛知県犬山地域と岐阜県飛騨地域において開始した。その結果、岐阜県飛騨地域の断層は熱水変質の影響を激しく被っているため、炭質物のラマンスペクトルを用いた摩擦発熱指標の検出には向かないことが判明した。一方、愛知県犬山地域の木曽川沿いに露出するスラストシート境界断層には、ペルム紀ートリアス紀境界海洋無酸素事変からの回復が十分でない時代に堆積した黒色炭質物が最大で8.5wt%も濃集していることが明らかとなった。そこで、この断層に焦点を絞り、断層岩の記載、炭質物ラマンスペクトル分析用試料のサンプリングを行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭質物と断層物質の混合試料を用いた摩擦実験及び実験データを用いた有限要素法による数値計算により、炭質物のラマンスペクトルが500℃以上の摩擦発熱指標になりうることを実証できたのは画期的な研究成果であるといえる。そのため現在、成果の論文化を進めているところである。 岐阜県飛騨地域の断層が著しく熱水変質の影響を被っていたのは予想以上であった。一方、愛知県犬山地域のスラストシート境界断層では黒色炭質物が濃集しており、熱水変質の影響も限られていることから、今後研究を遂行していくにあたり格好の対象であることが判明した。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は愛知県犬山地域のスラストシート境界断層に焦点をあて、断層岩の記載とラマン分光分析を推進する予定である。まず、断層岩の記載に基づき、せん断変形が局所化した部分と分散化した部分を見出し、それらから採取した試料を用いてラマン分光分析を実施する。摩擦発熱量はせん断帯の幅に反比例するので、せん断変形が局所化した部分では、摩擦実験で実証されたようなラマンスペクトルの強度比の変化が期待される。一方、せん断変形が分散化した部分では、ラマンスペクトルの変化は認められないと予想される。せん断変形が局所化した部分からラマンスペクトル変化が認められた場合、微細構造観察をもとに変形メカニズムを検討する。このようにして、摩擦実験で明らかにされた摩擦発熱による500℃以上の温度上昇が天然の断層でも検出できるか探っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
顕微ラマン付顕微鏡用真空加熱ステージを設備備品として購入し設置する予定の実験室が、平成26年度耐震工事の対象となってしまったため、大学でラマン分光分析が実施できない状況となってしまった。そのため当初の計画にあった備品購入が出来ない事態となった。この耐震工事に伴う研究の大幅な遅れを避けるため、ラマン分光分析は東京大学で急遽実施させて頂くこととなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
耐震工事は終了し、平成27年5月までには実験室の引越が完了予定である。今後ラマン分光分析を実施する場合、測定条件を同一にする必要があるため、東京大学で引き続き測定をする必要がある。一方、耐震工事に伴う実験室引越完了後、真空加熱ステージ取り付け可能な偏光顕微鏡一式を購入して、ラマン分光分析に使用した試料の観察・分析を実施する予定である。
|