研究課題
炭質物と断層物質の混合試料を用いた摩擦実験と温度計測・解析を実施した。その結果、低速すべりでは炭質物ラマンスペクトルは変化せず、高速すべりに伴って温度が500℃を越え、power densityが0.52 MW/m2以上に達すると、炭質物ラマンスペクトルは明瞭に変化し、炭質物の熟成度が増加することを見出した。これにより、炭質物ラマンスペクトルは断層における摩擦発熱検出に有効であることが実証され、そのための条件を、到達温度とpower densityにより定量的に評価することに成功した。これらの成果を、インパクトファクターの高い国際学術誌に投稿し、査読を経て、受理・掲載された。次に炭質物ラマンスペクトルが天然の断層に適用できるか探るべく、炭質物が濃集したジュラ紀付加体中のスラストを対象に断層岩観察・分析を行い、カタクレーサイトとシュードタキライトを見出した。その後、これらの断層岩から採取した試料を用いてラマン分光分析を行った。その結果、分散化した変形を示すカタクレーサイトでは炭質物ラマンスペクトルは変化しないのに対し、局所化した変形を示すシュードタキライトとその近傍2ミリでは炭質物ラマンスペクトルが明瞭に変化し、炭質物の熟成度が増加していることを見出した。また、熱物性測定と熱モデリング計算により、シュードタキライト近傍2ミリで炭質物ラマンスペクトルが明瞭に変化するのは、高い熱拡散率により500℃以上の急速加熱を被ったことが原因であることを明らかにした。これにより、天然の断層からも炭質物ラマンスペクトルは断層における摩擦発熱検出に有効であることが実証され、その際の最低到達温度が見積もれることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
炭質物ラマンスペクトルが断層における摩擦発熱指標構築に有効であることを実証し、査読付き国際誌に発表できたのは、本研究課題の大きな成果であると言える。一方で、炭質物ラマンスペクトルは500℃以上の温度異常がないと短時間急速加熱では変化せず、当初目論んでいた炭質物ラマン摩擦発熱温度計の確立は難しい。しかし、地震時の最低到達温度と最低power densityの見積には適用できることが明らかとなり、有益な情報を提供できると言える。また、炭質物ラマンスペクトルを天然の断層に適用する過程で、ジュラ紀付加体中のチャートからシュードタキライトを発見し、炭質物ラマンスペクトルを用いて炭質物熟成度増加をを見出すことに成功した。これは、世界初の発見と結果である。
平成28年度は研究最終年度である。これまでの研究で炭質物ラマンスペクトルは、500℃以上の短時間急速加熱と0.52 MW/m2以上のpower densityで変化することが明らかとなったので、これらの結果をもとに、地震時のせん断応力と摩擦すべりに消費されるエネルギーの最小値を見積もる予定である。また、ジュラ紀付加体中のチャートからシュードタキライトを世界で初めて発見し、炭質物ラマン異常を見出したので、これらの結果を融合させ、地震時の断層挙動を評価したうえで、論文化する予定である。これらをもって本研究課題の総括としたい。
耐震工事に伴う研究室の一時引越のため、偏光顕微鏡一式導入を平成27年度に行う必要が生じた。
研究最終年度である平成28年度は、これまでの研究総括として学会・論文発表を積極的に行う予定である。また、ジュラ紀付加体中のチャートからシュードタキライトを世界で初めて発見し、炭質物ラマン異常を見出したので、引き続き地質調査や分析にも研究費を使用予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 5件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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