研究課題
静岡県下田市から南伊豆町の海岸各所では隆起貝層が見られ,それらは約3000年前,西暦1000~1270年,1430~1660年,1506~1815年の計4回の地震性隆起があったことを示す.一方,下田市の南10 kmに位置する神子元島では隆起貝層は見られないことから,地震性地殻変動をもたらした逆断層は,下田と神子元島の間にある.海底地形で逆断層の位置を推定し,固有地震モデルを用いて,古文書の古地震の規模を考慮して,断層の形態・すべり量を求めた.その結果,逆断層は下田沖3 kmにあり,長さは25 km,幅 13 km,傾斜は北に52°,1回のすべり量は2.7 mで,モーメントマグニチュード7クラスの地震を起こすことが分かった.これらの研究成果は,Kitamura et al. (2015) Earth, Planets and Space. 67:197 DOI 10.1186/s40623-015-0367-zに公表し,静岡新聞と伊豆新聞に掲載された.神津島では複数の箇所で隆起貝層を発見し,試料採取を行い,年代測定を行った.これらのデータについては,現在解析中である.焼津市浜当目低地の津波堆積物調査では,4地点のボーリングコア(深度5 m)の掘削を行い,以下の知見を得た.(1)津波堆積物と推定されるイベント層は少なくとも二層ある;(2)下位のイベント層は,西暦780年から西暦1025年の間に堆積したことから,西暦887年に南海トラフで発生した仁和地震の津波堆積物である可能性が高い.また,この地震の発生時に浜当目周辺では海岸の急速な後退が起きたと推定される;(3)上位のイベント層は,西暦1025年以降なので,明応津波の津波堆積物の可能性がある.この成果は静岡新聞,毎日新聞静岡版,中日新聞静岡版,朝日新聞静岡版に掲載された.
3: やや遅れている
本研究期間に実施する項目は次の6つである.(1)静岡・清水平野で津波堆積物の分布を解明し,古津波の規模を特定する,(2)清水平野の完新統に関しては,堆積相・珪藻群集解析から明応地震と宝永地震の地殻変動の有無を明らかにする,(3)焼津平野において津波堆積物の有無を明らかにする,(4)伊豆半島南端の海岸で隆起貝層と津波石の発見を目指し,発見されたならば年代測定を行い,地殻変動・古津波の情報を得る,(5)伊豆半島南端の沿岸低地でボーリング掘削を行い,完新統の堆積相・珪藻群集解析から地殻変動に関する情報を得る,(6)式根島では,既報の隆起貝層の調査ならびに新たな隆起貝層の発見を目指す.2014年度には(3),(4),,(6)が終了した.だが,2015年度に焼津市との合同調査で,同市浜当目低地で津波堆積物調査を実施し,少なくとも2層の津波堆積物を発見した.そのため,追加調査を行わなければならないことになった.また,(6)で得たデータの解析の過程で,仮説の妥当性の検証のためには,式根島の南方の神津島・三宅島における地殻変動・津波堆積物の調査の必要が出た.そこで,2015年度は神津島の調査を実施したところ,隆起貝層の報告例が皆無だったにも関わらず,複数個所で隆起貝層を発見した.これらの,新たな発見によって,焼津市と神津島・三宅島の調査をさらに行う必要が出たので,当初の研究計画からやや遅れることとなった.しかし,これらの追加調査は,本研究課題の遂行にとっては,むしろ大幅な前進となる極めて重要な新知見をもたらしている.
津波堆積物・古地震の情報量に関して,静岡・清水平野,伊豆半島南端の沿岸低地よりも,焼津市浜当目低地と式根島・神津島・三宅島のそれは乏しい.この状況では,本研究課題の遂行に支障が出る.そのため,今後の研究では,焼津市浜当目低地と式根島・神津島・三宅島における研究を優先させる.これらの調査結果をできるだけ早くまとめ,順次,国際誌に公表するとともに,報道機関を通じて,国民に成果を積極的に発信する予定である.
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
Quaternary International
巻: 397 ページ: 541-554
10.1016/j.quaint.2015.04.021
Earth, Planets and Space
巻: 67 ページ: 197
10.1186/s40623-015-0367-z
静岡大学地球科学研究報告
巻: 42 ページ: 1-14
info:doi/10.14945/00009096
巻: 42 ページ: 15-23
info:doi/10.14945/00009097
http://homepage3.nifty.com/a-kitamura/
http://www.shizuoka.ac.jp/pressrelease/pdf/2016/PressRelease_9.pdf