研究課題
今年度は,津波起源混濁流モデルの基礎となる堆積物運搬作用について検討を行い,新しい浮遊砂輸送モデルの構築を行った.その結果,乱流運動エネルギー保存則と干渉沈降効果を組み込んだモデルが実際の津波や混濁流による堆積物輸送を的確に表現できることが明らかになった.津波や混濁流は,剪断応力が高くても浮遊砂の濃度が飽和する現象が知られている.本研究は,これが浮遊砂濃度勾配が乱流運動エネルギーを減少させることによるものであることを明らかにしている.さらに,高濃度領域では干渉沈降効果が乱流運動エネルギー抑制効果を上回り,高濃度で重力流が流下できることも明らかになった.これら低濃度領域および高濃度領域での混濁流の平衡条件を検討し,新しいモデルに基づいて相図を作成した.その結果,高濃度領域での平衡条件が現れるためには粒度が200μm以下でかつ流速が7m/s以上であることが必要であることも明らかになった.これらの成果に加えて,津波起源混濁流の3次元数値計算を行うためのコードを検討し,Flow 3Dを採用することとした.また,来年度以降に行う水槽実験を円滑に推進するため,今年度は計測機器の購入や調整を行い,予察的に混濁流の水槽実験を行った.その結果,混濁流が形成するベッドフォームの安定条件がほぼ開水路ベッドフォーム安定条件と同じであることが確認できた.ベッドフォームの形成条件は流れの挙動を予測する際にも,堆積物から流れを復元する際にも重要である.
2: おおむね順調に進展している
初年度に予定していたモデル開発は順調に進展しており,3次元数値計算についてもおおよそのめどは立っている.さらに,次年度以降の水槽実験に向けた準備も整いつつある.
本研究では,津波が起こす海底面付近の流れと,それによって浮遊した堆積物の流れ(密度流)をカップリングさせて一体として計算するモデルを構築する.津波・混濁流の流体シミュレーションには3次元有限差分法モデルを用いる.開発したモデルを検証するため,スケールを縮小した津波混濁流再現実験を行う.これに加えて,すでに東京大学淡青丸にて取得・解析中の海底コア中のタービダイトとの比較を行い,モデルの妥当性を検証する.検証の結果,モデルに十分な精度が期待できないことが分かった場合,例えば浅海部分での計算は有限要素法によるより高解像度なモデルへ切り替えるなど,モデルの根幹部分の変更も検討する.津波・混濁流カップリングモデル開発に際しては,フローサイエンスジャパン(株)製ソフトウェアFlow3Dを利用する.このソフトウェアは津波計算や密度流計算に実績がある.堆積物輸送に関しては,独自に浮遊堆積物の移流拡散計算を行うモジュールを開発する.開発したモデルを検証するため,津波が混濁流を発生させる様子を3次元の縮小スケールモデルにより解析する.実験には京都大学理学部にある大型堆積物密度流実験水槽(4.4×2.2×1.8 m)を用いる.スケール則を考慮して,実験には比重1.5の軽量粒子(メラミン樹脂製)を用いる.平成27年度以降は新たに開発するロックゲート式津波発生装置を接続し,軽量粒子により作った堆積地形に津波(長波)が押し寄せて混濁流が発生する様子をよりリアルに再現する.この段階で実験が適切に行えない場合は,実験素材の吟味から始めて,より小スケールの実験に適した装置開発を試みる.
モデル開発が順調に進行したため,平成26年度は数値モデルの実証などにより注力した結果,水槽実験に関連した装置の購入を若干遅らせることとなった.ただし,実験自体は順調に進行しており,平成27年度は迅速に物品購入を行う予定である.
平成26年度に購入予定であった装置設置用の架台を4月中に購入し,前年度予算を消化する予定である.
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Geophysical Research Letters
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