研究課題/領域番号 |
26287128
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
井尻 暁 独立行政法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, 主任研究員 (70374212)
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研究分担者 |
坂井 三郎 独立行政法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 技術研究員 (90359175)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | メタン / 同位体分子温度指標 / 海底下地殻内環境 |
研究実績の概要 |
メタンの生成温度の指標となるクランプトアイソトープと呼ばれる特殊な同位体分子(一つのメタンの分子中に重い同位体13CとD両方を含むメタン分子:13CH3D)の定量のためのレーザーユニットを選定し購入した。レーザーは、メタンの13CH3D, 12CH3D及び12CH4定量用(1169cm-1)と13CH4の定量用(1331cm-1)の二つのユニットから構成される。当初の予定では、このレーザーユニットを二酸化炭素のクランプトアイソトープ測定用検出器に取り付ける予定であったが、調整なしでは充分な感度を得ることができないことが明らかとなった。 また、マサチューセッツ工科大学との共同研究として、国際統合掘削計画(IODP)第337次航海において下北八戸沖の海底下2kmの石炭(褐炭)層より採取したメタンのクランプトアイソトープの測定を依頼した。測定が行われたガス試料は、掘削孔内に下ろした現場型採水器によって圧力を保持したまま採取した地層水試料から抽出したものであり、炭素・水素同位体比とメタン/エタン濃度比から、メタンが水素酸化型メタン生成によって生成したことが示唆されていた。クランプトアイソトープの測定結果は、メタンの生成温度が約70℃であることを示した。石炭層の深度での温度は約55℃であり、70℃という生成温度は、石炭層中のメタンが石炭の埋没の過程で微生物によって生成され蓄積されていったものではなく、現場付近の深度で微生物により生成された可能性が高いことが明らかとなった。この結果はメタンのクランプトアイソトープが、メタンの生成過程や生成環境を知る上で重要な手がかりとなることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の予定は、購入したレーザーユニットを検出器と組み合わせて、メタンのクランプトアイソトープの測定システムを確立することであったが、検出器の調整が必要ということがわかりシステムの確立には至らなかった。その一方で、平成27年度以後に予定していたIODP第337次航海で採取された海底下石炭層中のメタンのクランプトアイソトープの測定を、マサチューセッツ工科大学に依頼し良好な結果が得られ、クランプトアイソトープの有効性を確かめることができたため、予定より遅れた部分と予定以上に進展している部分があることを考慮して、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に購入したレーザーユニットと組み合わせる検出器の調整を行い、試料ガスの前処理導入系とあわせたレーザー同位体分光システムの確立を急ぐ。 またケーススタディーとして、熊野海盆海底泥火山のメタンのクランプトアイソトープの測定を行うと同時に、平成27年度に実施予定の種子島沖海底泥火山調査航海にて、クランプトアイソトープ測定のためのガス試料の大量採取を行う。紀伊半島沖熊野前弧海盆に位置する海底泥火山の山頂付近の堆積物中にはメタンハイドレートが多く含まれ、メタンが海底下から泥火山を通じて大量に供給してきた可能性が示唆される。掘削によって得られた試料中のメタンの炭素・水素同位体比とメタン/エタン濃度比、二酸化炭素の炭素同位体比から、メタンの大部分が水素酸化型メタン生成代謝によって生成されたことが明らかとなっている。このメタンのクランプトアイソトープの測定によってメタンの生成温度を見積もることで、メタンハイドレートを形成するほどの大量のメタンを生成する活発な微生物活動がどこで行われていたかを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度末に代表者の在勤地である高知県から所属機関本部のある横須賀市へ赴き、研究分担者の坂井氏と打ち合わせを行う予定であったが、研究遂行のために優先して実施すべき計画が生じ、打ち合わせを次年度に見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度末に行うことができなかった打ち合わせを次年度に行うための旅費として使用する。
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