研究課題
マサチューセッツ工科大学との共同研究として、地球深部探査船「ちきゅう」によって熊野海盆の海底泥火山の掘削試料から得られたメタンについて、メタンの生成温度の指標となるクランプトアイソトープの測定を依頼した。紀伊半島沖熊野前弧海盆に位置する海底泥火山の山頂付近の堆積物中にはメタンハイドレートが多く含まれ、メタンが海底下から泥火山を通じて大量に供給されてきた可能性が示唆される。掘削によって得られた試料中のメタンの炭素・水素同位体比および、メタン/エタン濃度比から熊野海盆海底泥火山のメタンの90パーセント以上が微生物起源であることが示唆されていた。このことから、泥火山の存在する熊野海盆の海底下の地層中、もしくは泥火山の噴出泥内部で、メタンハイドレートを形成するほど大量のメタンを生成する活発な微生物活動があることが示唆されるが、堆積物中のどこでメタンが生成されているはわからなかった。測定が行われたガス試料は、圧力を保持したまま地層試料を採取した保圧コアから抽出しており、掘削試料の回収中におけるメタンのコンタミや脱ガスの影響がない試料である。クランプトアイソトープの値はメタンの生成温度が約30℃であることを示し、低温下での微生物によるメタン生成という推定と整合的な結果が得られた。メタンの90パーセント以上が微生物起源である場合、微生物起源メタンの生成温度は17℃~30℃であり、泥火山周辺の地温勾配からメタンが生成した深度は海底下400~1000mと推定される。この深度は泥火山の噴出泥の起源と考えられる高間隙圧層の深度(400m~700m)と整合的であり、泥火山を噴出させた「泥だまり」の中で微生物によるメタン生成が活発であったことを示す。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の予定は、購入したレーザーユニットを検出器と組み合わせて、メタンのクランプトアイソトープの測定システムを確立することであったが、検出器の調達が間に合わず、システムの確立には至らなかった。その一方で平成28年度以後に予定していた熊野海盆海底泥火山で採取されたメタンのクランプトアイソトープの測定を、マサチューセッツ工科大学に依頼し良好な結果が得られ、クランプトアイソトープの有効性を確かめることができたため、予定よりも遅れた部分と予定以上に進展している部分があることを考慮して、おおむね順調に進展している。
平成28年度は、熊野海盆海底泥火山で得られた結果をまとめて投稿するとともに、クランプトアイソトープの分析システムを確立する。
人件費の見積もりが年度末ぎりぎりまで確定しなかったため、未使用額(2269円)が生じた。
平成28年度の実験消耗品(ガス試料保存容器など)として使用する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Science
巻: 349 ページ: 420-424
DOI: 10.1126/science.aaa6882