研究課題/領域番号 |
26287131
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大路 樹生 名古屋大学, 博物館, 教授 (50160487)
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研究分担者 |
ジェンキンズ ロバート 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (10451824)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 棘皮動物 / 白亜系 / 冷湧水 / メタン湧水 / 炭素同位体 / 化学合成群集 |
研究実績の概要 |
アメリカ・サウスダコタ州南西部の上部白亜紀層に含まれる化学合成群集中から棘皮動物化石が複数種見つかった。これらはウミユリ、ヒトデ、ウニ(正形類と不正形類)である。これらの骨格の炭素同位体比の分析を行った。これらのうち、湧水域のみから産するウミユリ類は他では見られない特異な形態(茎に多数のチューブが存在)を持っており、またこれらは極めて低い炭素同位体比(-20‰を下回る)を示すことが分かった。一方冷水域のウニ(正形類、不正形類とも)は約-12‰程度であった。この結果から、ウミユリは形態的な面のみならず代謝の面からもメタン湧水に強く依存していたことが推定される。一方、他の棘皮動物は冷湧水域に形態的・生態的に特殊化したものではなく、豊富な栄養を求めて非冷湧水域から来訪したことが考えられる。 北海道北部の同時代(上部白亜系)から産出する、冷湧水の噴出域付近のゴカクウミユリ類の骨格の炭素同位体比の測定を行ったところ、低い同位体比を示し、メタン湧水との密接な関連が示唆された。しかし上部エゾ層群のゴカクウミユリ類は形態的に特殊化しておらず、形態的な変化を示すことなく冷湧水環境に進出した可能性がある。 大陸斜面以深の深海環境に生息するウミユリ(チヒロウミユリ類)の形態的な検討を行い、比較的浅海域のウミユリとの比較を行った。水深7,000 mを越える超深海域のチヒロウミユリは、形態的には陸棚斜面生息するチヒロウミユリと極めて類似しており、大きな深度差にもかかわらず、両者の密接な交流が示唆される結果となった。 ウミシダ類の従来の文献をコンパイルし、ウミシダ類の深度分布と形態的な特徴の変化を調べた結果、浅海性のものは多くの腕を有するが、生息深度が増すと腕の本数が減少することが明らかになった。この結果は浅海と深海の餌の量の違い、捕食動物の多さの違いと関係していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度はサウスダコタ州のフィールドが多雨のため調査ができなかったが、前年までの豊富な資料とアメリカ・自然史博物館(ニューヨーク)保管の標本を利用することで、十分な形態的データと骨格に基づく炭素同位体比のデータを得ることができた。また同時代のメタン湧水に伴う環境を北海道の白亜系の地層で観察することができ、アメリカのものと全く異なるウミユリ類で、炭素同位体比データからメタン湧水に依存していると思われる種類を見出すことができた。これらは通常の環境(非冷湧水環境)から産出するものと形態的に非常に類似しているので、これらが形態進化を行うことなく冷湧水に進出した原因を探りたい。さらに超深海のウミユリに関する研究や浅海ー深海のウミシダ類の形態変化とその原因に関する研究も進行中である。このように本研究は予定されていた研究内容を着実に実行していると同時に新たな展開を見せており、概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカの中西部のメタン湧水に伴う化学合成群集としての棘皮動物の研究では、ウミユリの特異な形態に関する研究、棘皮動物のさらに水平分布や層序分布を広げて調査を行ってその時空分布の把握を行う。また炭素同位体比の測定をより多くの種類の棘皮動物で行い、各種のメタン湧水との関わりの程度を議論したい。さらに新たなウミシダ(Glenotremites属)の分類、系統学的研究を行い、これが従来知られている時代分布より後の(最新の)種であることを確実なものとしたい。北海道の白亜系から産する、冷湧水近辺からのウミユリとそれ以外の環境からのウミユリそれぞれの骨格の炭素同位体比を測定し、今まで測定された軽い炭素同位体比のデータが冷湧水によるものか、それとも他のファクターが影響することがないのかどうかをチェックする。さらに浅海と深海の棘皮動物(ウミシダなど)の形態の違いを把握し、その相違が何に起因するのかを、請託学的なファクター(栄養となる有機物量の違い、捕食動物による捕食頻度の相違等)を考慮して議論したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたアメリカ・サウスダコタ州のフィールド調査が、現地の悪天候が続いたため(多雨)、行う事ができなかった。そのため研究資料として従来の採集品とアメリカ自然史博物館の標本を用いたが、その差額が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度は、前年度行う事のできなかったサウスダコタ州でのフィールド調査を十分に行う予定で、それに前年度繰越金を含めた研究費を用いる予定である。
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