研究課題/領域番号 |
26287131
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大路 樹生 名古屋大学, 博物館, 教授 (50160487)
|
研究分担者 |
ジェンキンズ ロバート 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (10451824)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 棘皮動物 / ウミユリ類 / タフォノミー / 機能形態 / 化学合成群集 |
研究実績の概要 |
固着性深海動物の代表例である棘皮動物ウミユリ類の運動性を理解するため、現生ウミユリ類を用いたタフォノミー実験を行った。堆積物に埋没させた現生ウミユリ類の腕には特徴的な姿勢(腕が外側にカールする)が見いだされ、それは中生代以降に生息しているウミユリ類である有関節亜綱のウミユリ類の化石に見いだされる姿勢と共通するものであった。一方、多数の古生代のウミユリ標本をアメリカ自然史博物館(スミソニアン協会)で観察し、その姿勢を検討した結果、現生ウミユリのタフォノミー実験で見られた姿勢や中生代以降の有関節亜綱のウミユリの化石みられた姿勢はほとんど観察されなかった。このことは、古生代のウミユリと中生代以降のウミユリの化石埋没時の反応が大きく異なることを意味している。軟組織を含めた腕の携帯解析により、姿勢の相違は腕に筋肉組織があるかどうか、そしてその筋肉の収縮力に対抗するじん帯による収縮の力が加わっていたのかどうかに依存することが分かった。この結果、古生代のウミユリにはほとんど筋肉組織が発達していなかったこと、従って古生代のウミユリ類の運動性は極めて限られたものであったことが推測された。 また冷湧水環境から産出する棘皮動物類の形態と、炭素同位体比から、それらが化学合成群集であるかどうかの検討を進めた。アメリカのサウスダコタ州の上部白亜系から産出したウミユリはその形態と炭素同位体比から化学合成群集であることが示された。 さらにウミユリ類が受ける、捕食者からの選択圧を定量的に見積もるため、北太平洋、北大西洋に生息するウミシダ類を用いて、その再生腕(部分捕食の痕跡)を数え、地理的、深度による捕食圧の違いを見出す研究を行っている。予察的には深度が大きくなるにつれて捕食頻度は低くなるが、日本海のように広く固有水が分布する場所では異なるパターンが観察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タフォノミー実験と古生代、中生代のウミユリ化石の観察から初めて古生代のウミユリの運動性について新知見を提供することができた点、棘皮動物の化学合成群集への進出について、その形態学的解析、同位体分析から明らかにできた点、さらにウミユリの受ける捕食圧の定量的な検討が順調に進行している点から、予想以上の結果が得られていると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は超深海の固着性動物とより浅海の固着性動物の比較、その移動可能性などを資料に基づいて論じたい。また深海の棘皮動物と浅海の棘皮動物の捕食を受ける程度の差を定量的に見積もり、果たして深海が固着性棘皮動物にとって捕食者の少ない、適した環境となっているのかどうかを明らかにしたい。さらに最終年度として、これら深海性固着動物の古生態(生息環境、他の動物との関連)が時間軸とともにどのように変化したのかについて、まとめを行いたい。
|