研究課題
有力な生命の起源仮説である「表面代謝説」の検証と黄鉄鉱による光触媒反応による化学進化の実験による解明および黄鉄鉱の形成に関わる生命の種類と物質の特定を研究目的とした。平成27年度の研究実施計画として、①平成26年度に確立した気相の雰囲気と温度および光照射量を制御可能な実験系を用いた有機物合成、②深海底熱水噴出域でナノ黄鉄鉱を形成する巻貝の鱗タンパク質中で、ナノ黄鉄鉱形成に関与するタンパク質を特定、③海底と陸上の熱水噴出域で、熱水と熱水活動に伴われて形成した固体硫化物を採取し、ナノ鉱物学的特性を明らかにする予定であった。しかし、生命誕生に関与する可能性の高い共通祖先が、これまでは超好熱性の原核生物であり高温実験を計画していたが、近年急速に進展したゲノム解析により共通祖先は中温を好む原核生物で陸域地下に生息することが明らかになってきた。そこで本年度は②と③を実施しつつ、次年度実施予定であった④熱水噴出に生息する原核生物のDNA配列の解析と陸域地下に生息する原核生物のDNA配列の解析を行い、どちらに共通祖先に近い微生物が生息するかを明らかにすることを目指した。②の研究実績としては、塩酸抽出で溶解しない黄鉄鉱をクロム還元法により完全に溶かし、鉄結合能を持つ有機物の存在を明らかにした。③の研究実績としては、深海底熱水噴出域から採取した固体硫化物と大陸地殻を構成する花崗岩のナノ鉱物学的な解析を行った。固体硫化物には巻貝の鱗中で見つかったナノ黄鉄鉱は存在しないが、花崗岩中にウランのナノ鉱物を発見した。④に関しては、ゲノム解析で明らかになった共通祖先に最も近縁な原核生物を陸上の地下水中から検出し、陸上地下の鉱物ー水反応により生命が誕生した可能性を示した。一方で深海底熱水噴出域から採取した固体硫化物には共通祖先に近い微生物は優占しなかった。
2: おおむね順調に進展している
ゲノム解析の進展により生命起源研究に大変革が起きており、当初予定していた有機物合成実験を次年度に実施する事とし、その変化に対応するために陸域地下の研究を当初の予定に加えて行った。鉄のうろこの鉄結合物質の研究と固体硫化物のナノ鉱物の解析は順調に進捗する事ができた。
有機物合成実験は、深海底熱水噴出域を模擬した高温・海水条件と、陸域地下を模擬した低温・淡水条件で行う。また鉄の鱗に関しては、HPLCポストカラム法により得られた鉄結合物質に対して質量分析及びNMRを用いた構造決定を試みる。またこの手法を固体硫化物と陸域地下に生息する原核生物にも適用し、黄鉄鉱と相互作用する生体分子の探索を行う。
有機物合成実験を次年度に先送りしたため、実験用の費用を繰り越す必要性がある。
深海底熱水噴出域を模擬した高温・海水条件と、陸域地下を模擬した低温・淡水条件で有機物合成実験を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Environmental Microbiology Reports
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