本研究の目的は、内核を構成しているε鉄の粒成長速度と拡散速度を高圧実験を手法として決定し、内核の進化や粘性構造について新たな知見を得ることである。特に、軽元素の影響を調査し、地球物理学的観測により推定されている粘性率や粒径と比較することにより、内核の化学組成に関しても制約を与えることを目的としている。 粒成長実験は、55 GPaの圧力で行った。この結果を融点規格化を用いて内核まで外挿することにより、内核条件での粒成長速度定数を決定した。その結果、成長の初期ではその成長速度が大きくなり、内核の粒径はどんなに小さく見積もっても、数百メートル以上となることが判明した。このような粒径では、変形は歪み速度に依存しないハーパードーン機構となると考えられ、内核の粘性は一様であることが導かれる。 また、その時の粘性に制約を与えるために、鉄の自己拡散速度を考慮した。本研究では、45 GPa、1300 Kの条件で約10-18 m2/sの係数を得ることができた。この値から、内核の粘性率を見積もると約1010 Pasとなり、地球物理学的推定の条件を満たしている。 また、内核に存在している軽元素の種類に制約を与えるために、軽元素のレオロジー的性質への影響を調べた。鉄に珪素を固溶させた系での変形実験を行った。その結果、5wt %の珪素の含有量では、粘性率に有意な違いを生じさせなかった。このことは、内核の最上部に見られる地震波散逸は、少なくとも珪素の含有では説明できないことを示しており、内核の軽元素問題に新たな制約を与えることができた。
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