研究課題
本研究は,天然試料の組織観察と高温高圧実験によって,地球深部における多結晶ダイヤモンドの結晶化メカニズムとその起源を明らかにすることを目的としている.昨年度は,主に黒色塊状の起源不明の多結晶ダイヤ「カーボナード」の微細組織と結晶方位分布の観察・解析を進め,カーボナードを構成するダイヤモンド結晶粒内の包有物の記載をさらに進めた.さらに,それらの特徴を球晶状多結晶ダイヤ「バラス」と比較しながら,その組織化・結晶化プロセスのモデル化を行った.カーボナード,バラス共に粒内には多数の負晶が含まれることから,どちらの多結晶ダイヤも高過飽和流体中で生成したと推測されるが,その流体環境には大きな差があったものと考えられる.物質輸送が拡散で律速される静的な環境下では伸長成長が促進されてバラスが形成され,一方,移流的な環境下ではカーボナードのような斑状組織が形成されるとするモデルを考案した.また,高圧実験においても水-メタンの混合流体中より20 GPa,1000℃の条件においてダイヤの核形成が起こることを確認し,地球深部におけるダイヤ生成においても酸化還元度の異なる2流体の混合が重要な役割を果たしている可能性を見出した.一方,地球深部由来ではないものの,隕石の衝突によって生じた巨大クレーター中より,天然で初めてナノサイズの多数のダイヤモンドの集合体(ナノ多結晶ダイヤモンド)を記載し,Scientific Reports誌にその成果を発表するとともに,プレスリリースを行った.その成果は,TVニュース,新聞,ネット等,各方面のマスメディアで取り上げられ,多くの注目を集めた.ナノ多結晶ダイヤモンドは,高温高圧下におけるグラファイトからの直接変換によって合成されることが実験で示されていたが,同様の条件が巨大隕石の衝突によっても再現され,実際に同ダイヤモンドが形成されることを示した点で斬新である.
2: おおむね順調に進展している
昨年度もおおむね年度当初の計画通り,着実な成果を挙げることができた.特に,カーボナードの微細組織の記載と結晶方位分布解析について,一昨年度観察した中央アフリカ産の試料に加えてブラジル産の試料についても詳細な観察を行い,微細組織および内部包有鉱物のバラエティと共通性を確認した.また,球晶状多結晶ダイヤのバラスとの比較検討も行い,両多結晶ダイヤの組織化・結晶化プロセスにおいて,流体環境(hydrodynamics)が密接に関係している可能性を議論した.これらの成果を学生と一緒に日本鉱物科学会27年度年会において発表し,研究発表優秀賞を受賞するなど高い評価を得た.昨年度は観察試料を増やして観察の幅を広げたため,論文化の予定については目標よりもやや遅れているが,より多角的,統合的な議論が可能であると考えている.一方,カーボナード中の内部包有物の記載についても,昨年度はFIBを用いた試料加工~TEMによる観察までの流れをルーチン化し,オンファス輝石の他,NaやKなどのアルカリ元素を含む鉱物を含め,様々な包有鉱物を観察し,これらの成果についても論文へまとめるための準備を進めている.また,一昨年度に引き続き,メタンと水の混合流体(C-H-O流体)と炭酸塩鉱物(マグネサイト)を出発物質に用いた高温高圧実験を行い,両者の反応によってダイヤモンドが自発的に核形成することを再現よく確認した.これらの成果を今年度6月に横浜で行われるGoldschmidt国際会議にて口頭発表で報告し,論文へもまとめる予定である.さらに,最近,ダイヤモンドアンビルセル中,高温高圧条件においてメタンと水を反応させ,多結晶形態を示すダイヤモンドを自発的に生成させることにも成功しており,今年度はさらに生成環境や結晶化プロセスの詳細を検討したい.
今年度は,昨年度に引き続き,これまで起源が明らかにされていないカーボナード中に含まれる粒内包有物(初生包有物)と粒界包有物(二次生成物)の記載を収束イオンビーム加工機(FIB)と透過電子顕微鏡(TEM)を用いて進める.得られた結果を踏まえて,カーボナードの形成環境,および地表への上昇までの間に経験した交代・変質作用などのイベントの全貌について明らかにする.一方,実験的アプローチにおいては,現在ダイヤモンドアンビルセルを用いて行っているメタン-水系の高温高圧実験をベースに,マグネサイトなどの炭酸塩鉱物,およびケイ酸塩(マントル)鉱物共存下におけるダイヤモンド生成条件について検討を重ねる.これまでの実験においても複数の実験回収試料において,微細な単結晶の集合した球晶状の多結晶体が得られており,今後流体中の過飽和度と生成組織の関係についても議論してゆきたい.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 3件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件)
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