研究課題
高ガイド磁場リコネクションにおける高エネルギー電子の生成を検証するために、UTST装置において0.2Tのガイド磁場下で進行する0.02T程度の対向磁場のリコネクション過程に対して、軟X線計測、可視線スペクトル計測、磁場揺動計測を実施した。軟X線計測では、200eV以上の軟X線を透過するフィルタを用いた表面障壁ダイオードにおいてリコネクション期間の初期にのみ信号が検出され、高エネルギー電子の生成を含むリコネクション過程が非定常であることが示唆された。また、低エネルギー軟X線を透過するフィルタにおいては、信号がガイド磁場およびリコネクション電場の双方に正の相関を持つことが確認され、リコネクション電場による直接加速が局所的に発生していることを裏付ける結果を得た。同時に複数のヘリウムおよび炭素線スペクトルの時間発展計測を実施し、その強度比から電子エネルギーの時間発展を推定したところ、リコネクション初期と後期の二回に高エネルギー電子の割合が増加する傾向が確認された。このうち前者が電場による電子直接加速に、後者が高エネルギー電子の熱化に起因するものと考えられる。磁場揺動計測では、ほぼイオンサイクロトロン周波数程度の揺動がX点近傍で励起され、電流シート内部を下流方向に伝搬する様子が確認された。周方向の位相速度が下流に向かう位相速度に比べて10倍程度大きいことから、高速電子のビーム不安定性に由来する磁場揺動であると考えられるが、同時に電子加速が非定常に発生したことによる過渡的な高速リコネクションの結果としてプラズモイド状の閉じた磁気面が電流シート内に形成された可能性が新たに示された。X点における電子エネルギー分布を直接計測するための小型エネルギー分析器を試作し、予備実験を実施したところ、正確な測定にはリコネクション最初期に発生する浮遊電位変動を抑制する必要があることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
軟X線計測、磁場揺動計測のそれぞれにおいて高速電子の発生を示唆する結果が得られたことに加え、S/N比が良好であった低エネルギー軟X線計測ではガイド磁場やリコネクション電場に対する依存性を示すことができ、電子加速モデルとの定量的な比較検討を行うまでに至った。一方で、高エネルギー軟X線は検出には成功したもののS/N比が良好ではなく、その依存性は実験毎のばらつきに埋もれてしまった。当初予定通り次年度にリコネクション電場を増加させ、周方向に一周する間に電子が300eVを超えるエネルギーを獲得できるような実験の構築を急ぐ必要がある。磁場揺動計測については、径方向には十分な空間分解能にて揺動の伝搬を計測することができたのに対して、周方向の伝搬については測定点数および位置精度の不足により位相速度に大きな不確かさが存在していたため、精度を高めた計測を改めて実施する必要がある。また、高速カメラとの複合計測により磁場揺動と密度揺動との相関が重要であるという知見が新たに得られたため、より詳細な検証を行う必要がある。当初計画を前倒しして小型エネルギーアナライザの試作と予備実験を実施し、計測上の問題点を見つけ出すことができた。以上、実験研究の遂行状況は概ね順調であると評価することができる。
次年度の課題としてはリコネクション電場の増加と電子エネルギー分布直接計測の実現が大きな目的となる。エネルギー分析器の開発を当初予定より前倒しで開始したこと、および分析器以外の計測装置がすでに運用を開始していることから、特段の変更なしに次年度研究を推進可能であると考えられる。また今年度の成果によって、磁場揺動が閉じた磁気面構造の形成を経てより効率的な加速メカニズムを提供するという可能性が示されたため、各種計測器の分解能を揺動の空間波長を分解できる程度に向上させ、揺動と磁場構造、密度分布、高エネルギー電子分布を同時に計測する実験の追加実施を検討する。
研究計画は予定通り遂行したが、年度末に生じた端額の有効活用をするために次年度にまとめて使用する。
当初研究計画と変更なし。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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巻: 55 ページ: 033013
10.1088/0029-5515/55/3/033013
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