研究課題/領域番号 |
26287147
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐野 孝好 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センタ, 助教 (80362606)
|
研究分担者 |
西原 功修 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センタ, 研究員 (40107131)
坂和 洋一 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センタ, 准教授 (70242881)
森田 太智 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (30726401)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | レーザープラズマ実験 / 磁気流体シミュレーション |
研究実績の概要 |
様々な分野においてリヒトマイヤー・メシュコフ不安定(RMI)などの界面不安定性と磁場との相互作用が、近年急速に注目を集めている。本研究では、磁化プラズマ中のRMI実験を世界に先駆けて成功させることを目指している。大阪大学の激光HIPERレーザーを主に利用し、初年度である26年度には、RMI実験に適したターゲットデザインの確立を目的とした実験を実施した。 磁場入りRMI実験に必要な要素は(1)衝撃波、(2)密度擾乱、(3)外部磁場である。衝撃波を生成するために平行平板CHターゲットにレーザーを照射し、永久磁石により外部磁場を印可した。密度擾乱はCHターゲットの裏面側表面に波形の凹凸を付けることで与える。さらに、チャンバー内を約5Torrの窒素ガスで満たすことで、CHターゲットと窒素ガスによる接触不連続面を形成させた。 本年度の実験によって、明らかに初期擾乱起因と思われるRMIの成長を観測することに成功した。初期擾乱の波長やレーザーの集光径を変化させることで、RMIの成長を制御できることも明らかになり、今回考案されたターゲットデザインの有用性を示すことができたと言える。 一方、理論面では反射・透過衝撃波によって生成されるバルク渦度の効果について、線形理論モデル及び非線形数値シミュレーションを用いて解析を行った。その結果、強い衝撃波の場合には、バルク渦度はRMIの成長を顕著に抑制することが明らかになった。レーザープラズマ実験では、マッハ数が10を越えるような強い衝撃波が発生しているため、このようなバルク渦度の効果は、今後の実験結果の解釈の際に非常に重要になると考えられる。また、ターゲット物質の状態方程式の特徴によって、RMIの不安定成長が抑制される条件についても理論的に解析を行い、レーザー核融合実験への応用などを考察した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には当初の計画通りに、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの共同利用・共同研究として実施することができた。大型装置の共同利用実験のため、実験ショット回数が限られている中、最初の実験としては期待していた以上の計測に成功し、多くの考察が可能となった。最大の成果としては、リヒトマイヤー・メシュコフ不安定(RMI)を解析するための実験デザイン(レーザーを照射するターゲットの形状や計測器の配置など)が概ね決定できたことである。今回計測されたデータからは、初期に10ミクロン程度の振幅であった擾乱が、レーザー衝撃波の通過後に数100ミクロンを越える大きさまで増幅されていることが見て取れる。さらに、成長した擾乱の波長は、初期にターゲットに与えていた凹凸の波長と一致しており、観測された大振幅の擾乱がRMI起因であることを強く示唆している。二年目であるH27年度中にも、同レーザー施設の共同利用実験として採択が決定しており、現在も実験準備を進めているところである。 理論・シミュレーションに関しては、状態方程式依存性や界面以外の領域の渦度(バルク渦度)に着目した研究を進め、原著論文の出版や国際会議での口頭発表などを精力的に行っている。これらの効果は、レーザー核融合実験や超新星爆発などの天体プラズマ現象において無視できないことが予想されているにもかかわらず、現在までまだ十分な理論解析が行われていない。そこで、これらの効果について今後もさらに解析を進めていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の実験結果を踏まえて、今後の第一目標としては、RMIによる擾乱の成長と磁場の増幅過程の相関を明らかにしたい。数値シミュレーションによると、界面擾乱が成長することで磁力線が引き延ばされ、磁場強度が増幅されることが予想されている。この現象をレーザープラズマ実験によって定性・定量的に検証することを目指す。本年度のB-dotプローブを用いた磁場計測では、外部磁場の有無によって、計測される磁場強度に有意な差があることが観測された。しかしながら、磁場計測の精度やショット数の制約のために、RMI擾乱と磁場増幅との相関までは明らかにできなかった。そこで、次年度の実験では、計測方法をさらに改善することで、「RMIによる磁場増幅過程の観測」を実現させたいと考えている。 理論的研究としては、レーザー実験を模擬する大局的シミュレーションを開始する。計算結果とレーザーRMI実験の画像と照し合いながら、結果の解釈や実験デザインの改良に生かしていく。また、求心衝撃はのシングルモード解析も行い、不安定成長における幾何学的効果を調べる。入射衝撃波によるRMIだけでなく、求心衝撃波に特有の反射衝撃波による影響についても、定量的に解析していく。 コード開発の面では、バロクリニック効果による磁場生成項を誘導方程式に追加する。レイリー・テイラー不安定と同時に、RMIも磁場をゼロから生成することが可能である。このような磁場生成過程は、宇宙磁場の起源や乱流混合への影響など、非常に興味深い現象と関連している。しかしながら、その定量的な解析は皆無であると言ってよい。そこで、本研究で行うシングルモード解析やレーザー実験シミュレーションに、是非ともこの磁場生成効果を組み込んでいきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度の配分金額が申請していた額よりも減額されていたため、当初予定していた計測器を購入することが不可能となり、本年度は本研究に必要な別の計測器の購入や改良費用に使用した。さらに、次年度に繰り越した金額と配分金額と合わせて、今後の最重要課題である磁場計測のための新しい計測器の購入に利用することを計画している。以上のような理由から、基金の一部を次年度に繰り越すこととなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
H27年度の物品購入としては、当初から予定されていた大規模数値シミュレーション用の計算サーバに加え、磁場計測装置の改修及び新規購入を計画している。次年度の研究計画としては、リヒトマイヤー・メシュコフ不安定の成長と磁場の増幅過程の相関を実験的に明らかにすることを最重要課題としている。そのためには、磁場強度の計測が必要不可欠であるが、初年度の実験によって磁場計測器へのダメージが想定以上に入り易い実験であることが明らかになった。そこで、今後の実験では、計測装置のレイアウトの再構築を行うとともに、磁場計測装置の充実も必要であると考えている。繰り越し金額を含めた予算の範囲内で、効率的な実験装置の整備を進めていきたい。
|