研究課題/領域番号 |
26288001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武次 徹也 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90280932)
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研究分担者 |
前田 理 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60584836)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | SF-TDDFT / シススチルベン / 光異性化 / 反応経路 / ダイナミクス / 第一原理分子動力学 / 円錐交差 / 無輻射失活 |
研究実績の概要 |
電子励起状態における分子の運動は基底状態で予想される一般的な化学反応の描像とは異なる場合が多く、その推定が困難である。そのため、系の励起状態に対する予備知識無しに適用可能な第一原理分子動力学法は、光化学反応の解析において強力な手法となる。近年、高精度電子状態計算に基づく第一原理分子動力学計算が光励起緩和過程に適用されるようになり、反応の動的特徴に関する知見が得られるようになってきた。現在広く用いられているCASSCF法は動的電子相関が不十分なためエネルギーの定量性があまく、一方CASPT2法は精度が高い反面計算コストが高く原子数が20を超えた分子系では容易に破たんするため、より効率的で簡便な励起状態第一原理分子動力学計算手法の開発が求められている。本課題では、三重項状態を参照状態として一重項の基底・励起状態を計算するSpin-Flip時間依存密度汎関数法(SF-TDDFT)に基づく励起状態第一原理分子動力学法を開発した。SF-TDDFTは、基底状態と励起状態の交差領域でもポテンシャルを連続的に見積もることができ、HOMO-LUMOの二電子励起状態も取り扱えるが、HOMO-LUMO励起の三重項状態も解として得られることに加え、HOMO-LUMO以外が関与する励起状態については一重項・三重項・五重項状態の混合状態として得られるため、目的とする状態を追跡することが困難であった。そこで我々はSF-TDDFT法において目的の状態を追跡できる手法を新たに導入し、精度を落とすことなくコストを大幅に削減できる手法を完成させ、シススチルベンのππ*励起後のダイナミクスへと適用した。シススチルベンは、紫外光照射によりトランス体または環化体へと異性化することが報告されていたが、本シミュレーションにより、反応経路は環化体につながるがダイナミクスの効果によりトランス体が有利に生成することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、溶媒効果、トンネル効果、相対論効果などの因子が複合的に関与する多原子分子の電子励起状態非断熱反応ダイナミクスを第一原理計算に基づき解析する理論計算手法を確立し、非断熱効果にプラスαの因子が加わることにより新たに発現する化学事象を理論計算に基づき予測するとともに、最先端の分光学実験を解釈する上で実際に役に立つ実用的計算手法を構築することを目的としている。励起状態のダイナミクス計算を行うには、電子励起状態を適切に記述する電子状態理論が必須となるが、実績の概要に述べたように、これまでの研究で、我々は多配置・多参照理論に加えてSFTDDFTを利用できる形に整備している。本手法をさらにダイナミクスに適用できるようにbrush upすることで、複合的非断熱過程の理解を深めていくことができると考えている。また、電子励起状態におけるトンネル効果についてはトロポロンのトンネル分裂を対象としてすでに予備的な研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、「複合的因子」の関与する電子励起状態における動的非断熱過程を調べる新たな計算手法の開発を目指した研究を展開する。数値的なモデルにとどまらず、具体的分子系をターゲットとしてab initio法またはDFT法に基づく第一原理計算を伴う反応経路探索・動力学計算を実施する。励起ダイナミクス分野で先端的な実験研究を展開する研究グループと共同研究を進めているが、常に実験研究者の持つ描像を参照し、実験研究にとっても意義ある理論手法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は本研究課題に特化して使用するための計算機を購入する予定であったが、同じ研究グループの研究者がCRESTに採択されその資金を他大学の有料の計算機センター利用にあてたため、研究室が有する既存の計算機を本研究課題に優先的に使用することが可能となった。27年度より博士研究員の雇用を計画していたため、26年度の予算の一部を次年度に回して使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題に専念する博士研究員を1名雇用し、その人件費にあてる。
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