研究課題/領域番号 |
26288003
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森田 明弘 東北大学, 理学研究科, 教授 (70252418)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 表面・界面 / イオン輸送 / 分子シミュレーション |
研究実績の概要 |
液液界面でのイオン輸送を制御する相間移動触媒の機能を、従来の現象論的な速度論や計算化学を超えた新たな視点で解明した。液液界面をイオンが通過する際には、油相中に入ったイオンが水和水を引き連れてwater finger構造を作ることが従来から計算化学的に知られていたが、その機能に対する意味を分子レベルで示された例はなかった。本研究では、water finger構造の形成と切断を表す座標を導入してその座標上での自由エネルギー面を計算化学的に求めることに成功し、その構造遷移に伴って自由エネルギー障壁が存在することを明らかとした。これは、液液界面のイオン移動速度が拡散律速よりも数桁遅くなる理由となることを解明した。
water finger形成・切断を示す座標を定義するうえで、界面水の水素結合ネットワークの連結性をグラフ理論に基づいて簡便に与えることができることを示した。water finger形成・切断に伴うダイナミックスを解明するため、その自由エネルギー面上のランダム力や摩擦係数を分子シミュレーションから求め、その摩擦係数の振る舞いには界面での異常性が存在しないことも示した。界面イオン輸送は、界面近傍で拡散係数に異常性が現れるのではなく、従来知られていなかった自由エネルギー障壁によって遅くなることを示した。油相中に移動したイオンのwater fingerが切れた直後の水和水の状況を示し、バルク中での水和クラスターの分布よりも水和水を過剰に伴っていることも明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目標として掲げたように、イオン輸送を制御する界面ゆらぎの効果を定量的かつ明確な描像として示すことに成功した。water finger座標の定式化は、今後の液液界面で>の物質輸送にとって大きな意味をもった成果である。その成果に基づいて、イオン輸送のダイナミックスについても分子レベルの実体を明らかにしつつあり、さらに今後の方針に示すような水和の効果、イオンペア形成に伴うfacilitated ion transferのメカニズムについても研究が進展している。前年度には、有機相中におけるイオン水和の分布および吸着・脱離レートについて計算化学による微視的な描像を明らかにする成果を報告した。
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今後の研究の推進方策 |
液液界面を通過するイオンは、water fingerを切断した直後には多くの水和水を伴ってい>ることが知られている。先のイオン水和の分布にもとづき、水‐有機相界面の近傍をイオンが通過する際の水和クラスターの蒸発・吸着の速度論とイオン輸送の効率を明らかにする。 また相間移動触媒の輸送効率を決めるイオンペア形成の輸送への影響を解明する。イオンペア形成によって、界面輸送の自由エネルギーのプロファイルがどのように影響を受けるかを明らかにする。 また、液液界面における電子移動反応の計算にも進み、電子移動反応の自由エネルギー障壁が液液界面構造の揺らぎや水和によってどのように影響されるかの描像を明らかにする予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
30年度が最終年度であるため、記入しない。
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