研究課題/領域番号 |
26288004
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
歸家 令果 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10401168)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 反応動力学 / アト秒科学 |
研究実績の概要 |
(1)高感度レーザーアシステッド電子散乱観測装置の開発 角度分解飛行時間型電子分析器を用いることによって、検出効率が大幅に向上したレーザーアシステッド電子散乱観測装置を開発した。キセノン原子を試料とした弾性電子散乱観測実験によって、本装置の検出効率が従来の装置の50倍程度であることが確認された。この検出効率は設計時の予測値と一致しており、本装置が想定通りの性能を満たしていることが確認された。 (2)角度分解飛行時間型電子分析器のエネルギー分解能の向上 電子軌道の数値シミュレーションを行い、高いエネルギー分解能を達成するための諸条件を精査した結果、既設の角度分解飛行時間型電子分析器でも十分高いエネルギー分解能が得られる可能性があることが判明した。ヘリウム原子を試料として非弾性電子散乱実験を行った結果、少なくとも70 meVのエネルギー分解能が達成されていることが分かった。この成果は、本研究の目的を達成するために電子分析器の大幅な改修が必要ではないことを示す大きな進展である。さらに、この成果はフェムト秒レーザーパルスによるレーザーアシステッド非弾性電子散乱過程の観測も実現可能であることを示しており、今後の新たな研究展開へとつながると考えられる。 (3)高速パルスバルブの開発 ピエゾスタック型モジュールを用いた高速ピエゾバルブを設計・試作した。試作したパルスバルブの動作確認実験を繰り返し行ったところ、バルブの長期安定性には改善が必要であるものの、10 μs程度の極めて短い開口時間を繰り返し周波数5 kHzで達成することが可能であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既設の角度分解飛行時間型電子分析器を用いても100 meVを切るエネルギー分解能が得られたことは、本研究計画を遂行する上で極めて大きな進展である。今後、電子銃の光電陰極の膜厚を変化させることによって、電子線パルスの更なる単色化が実現されれば、当初計画を上回る成果も期待できると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、電子線パルスの更なる単色化を進めるとともに、中空ファイバー圧縮法を用いた数サイクルレーザーパルス発生装置を開発し、パルス幅10 fsを切る数サイクルレーザーパルスを発生させる。生成した数サイクスレーザーパルスを用いてレーザーアシステッド弾性電子散乱過程を誘起し、散乱電子信号を高いエネルギー分解能で測定する。数サイクスレーザーパルスの電場波形と散乱電子のエネルギー角度分布の関係を詳細に解析し、レーザーパルスの時間コヒーレンスが散乱電子に転写されることを示す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、電子銃の光電陰極面を製作するために、真空蒸着装置や膜厚計を開発する予定であった。しかし、膜厚を指定した陰極面の製作を外注した方が安価で、信頼性が高いことが判明し、真空蒸着装置や膜厚計の開発を取りやめ、陰極面の製作を外注することとなった。そのため、今年度は当初の予定よりも使用金額が少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の研究費は、主に物品費として数サイクルレーザーパルス発生装置の開発や光学部品等の購入に使用する予定である。また、学会発表のための参加登録費や旅費としても使用する予定である。
|