研究課題
今年度は、まず研究代表者の異動に伴い装置の移設を行った。そして直ちに真空に排気できることを確認した。その後、昨年度に明らかになった課題の解決を行った。まず測定槽内の磁場が5 μT程度あったことから、ミューメタル製の真空槽全体をさらに磁気シールドで覆い、ポンプにつながる開口径の大きなフランジにも磁気シールドを追加した。これにより、真空槽内部の磁場が0.7 μT以下となり、低速電子の軌道への影響がほぼ無視できる程度に押さえることができた。次に、低速電子源の開発を行った。これまでの低エネルギー逆光電子分光法では、運動エネルギー15-25 eVの電子線をErdman-Zipf型電子銃により生成し、逆バイアス電圧を印加することで試料直前で電子を減速するという方法で低速電子線を得ていた。しかし、電子線の入射方向に対して傾けた試料にバイアス電圧を印加すると電子の軌道が曲がるため、この方法は角度分解測定には適用できない。そこで、新たな電子源を設計した。まず有限要素法による電場計算に基づいた電子軌道のシミュレーションを行った。これにより、カソードから引き出した電子線を、5枚の電極から成るレンズによって減速することで、1-20 eVの電子線を試料位置である電子銃の下流25 mmに収束させられることがわかった。これに従って、実際に電子銃を設計した。現在、組み立てを終えてテストを進めている。その他、光学系の設計・製作、マニピュレーターの設計を進め、装置の主要部分の設計・製作を完了した。
2: おおむね順調に進展している
異動により、装置の移設を行ったため、申請時の予定よりはやや遅れている。一方で、昨年度に見つかった重大な問題点を解決することができた。測定槽の残留磁場は、これまでのミューメタル真空槽の外側に磁気シールドを加えることで解決した。また、困難と思われた低速電子線源の開発については、5枚の電極による減速レンズを用いることで、目的とする低速電子線が得られる目途が立った。また、集光光学系や試料マニピュレータなどの設計・製作がほぼ完了し、主要部分の準備が整った。
真空部品については未完部分の製作を早急に進め、今年度半ばまでには完成させる。これと並行して、電源や測定系の整備を進め、ソフトウェア開発を行う。電子源については、当初は半球型電子エネルギー分析器を用いる予定であった。しかし、この部品を安定して動作させるには時間がかかると予想されるので、当面は開発した減速レンズにカソードのアノードから成る電子源を直接取り付けて、早い時期にスペクトル測定が行えるようにする。
装置開発に関連して、マニピュレータ、サンプルホルダーなど、設計・製作を進めたが、納品が当初の予定よりもやや遅れて、年度を越えたことが主な理由である。また、プリズム分光器についても、独自に開発した全く新しいタイプの分光器であるために、改良に予想外の時間がかかっており、平成27年度には完了しなかったことも一因である。
装置の主要部品については、すでに設計を終えているので、早々に発注し製作を完了させる。プリズム分光器については、メーカー技術者と再度問題点をよく検討し、できるだけ早い時期に方針を決定するように努める。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 6件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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