研究課題/領域番号 |
26288007
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉田 弘幸 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (00283664)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低エネルギー逆光電子分光 / バンド分散 / 有機半導体 / 電子伝導 / 空準位 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、角度分解逆光電子分光法を行うための装置を開発し、有機半導体の空準位分子軌道の重なりによるバンド分散を世界で初めて観測することである。この装置は、大きく分けて、逆光電子分光測定を行うための測定槽、試料調製のための試料作製槽の二つの真空槽からなる。測定槽については、電子銃、集光光学系、マニピュレーターなどの主要な部分の製作を終えた。また、試料作製槽についても、蒸着装置を完成させ、単結晶金属表面の清浄化や評価に必要なスパッタ銃や低速電子線回折装置の取り付けを完了した。 これを用いて角度分解を行わない低エネルギー逆光電子分光測定を行ない、スペクトル測定が行えることを確認した。標準試料である多結晶銀の膜についての測定から得られた性能は、分解能、信号強度とも設計値の半分程度であり、当面の測定には支障はないものの、今後の測定のために問題点を整理しながら調整を進めている。一方、角度分解測定を行うための低速電子源の開発では、電場計算・軌道シミュレーションを基にして低速電子を発生させられるように、ソフトウェア、制御電源の開発を現在進めている。 これと並行して、角度分解を行わない分子間軌道相互作用の研究も進めた。まずスズフタロシアニンをグラファイト表面上に製膜すると、1次元鎖状に分子が並ぶことを見出した。これについて、分子数の関数としてLUMOとHOMOに由来する電子準位を精査したところ、スペクトル形状がヒュッケル近似による分子軌道法から予測される軌道分裂により再現されることが分かった。これは分子間軌道相互作用により、1次元バンド構造ができていく過程を観測したものと解釈でき、分子軌道間相互作用の大きさを表す移動積分の値をHOMOについては100 meV、LUMOについては90 meVと決定した。これはLUMOについて初めての実験的に求めた移動積分である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に研究代表者が異動したこと、真空槽の磁気シールドに不具合があり修理や改修に時間を要したことにより、予定よりやや遅れた。平成28年度は遅れを取り戻すべく集中的に研究を進めた結果、現在のところおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年に引き続き、低速電子源の開発を進める。また、低エネルギー逆光電子分光の精度の向上を目指し、さらに装置の調整を進めることで、角度分解低エネルギー逆光電子分光装置を完成させる。これらに加えて、今年度は、測定に必要な有機半導体の配向膜の作製に取り組む。これまで角度分解光電子分光法によりHOMOのバンド分散が測定されている試料のなかから、密度半関数法によるバンド計算を行って大きなLUMOバンドの分散が予測される試料について、膜成長をおこなう。Cu(110)清浄表面上に成長したペンタセン単結晶相などが有力候補である。これらを合わせることにより、角度分解低エネルギー逆光電子分光測定を実現する。 このようにして、作製した試料について、角度分解低エネルギー逆光電子分光法を適用することでLUMOバンドの測定を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に遅れが生じたため、次年度使用額が生じた。平成28年度にもその一部が残っていたが解消しつつある。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度後半に完成させる予定であった試料作製槽周辺の製作に充当する。
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備考 |
所属名称変更予定。
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