研究課題/領域番号 |
26288008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水谷 泰久 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60270469)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ラマン分光法 / 生物物理 / 時間分解分光学 |
研究実績の概要 |
時間分解共鳴ラマン分光法を用いて、ヘムタンパク質におけるエネルギー伝達過程の直接観測を行った。振動エネルギー伝達過程は、紫外光による共鳴ラマン効果を受けるトリプトファン残基のアンチストークスラマンバンドを、時間分解測定することによって観測した。本年度は、ヘリックスバンドルタンパク質を利用したエネルギー散逸の距離依存性の研究を行った。チトクロムb562は4本のαヘリックスからなるヘリックスバンドル構造をもつヘムタンパク質であり、4本のヘリックスの内部にヘムが位置している。αヘリックスの周期構造を利用してエネルギー散逸の距離依存性を調べた。各変異体に対して、ヘムの光励起に伴う時間分解アンチストークス共鳴ラマンスペクトルを測定した。760 cm-1付近に見られるトリプトファン残基由来のW18バンドについて、アンチストークスラマンバンドの光誘起増加率を求めたところ、強度の増大と減衰が観測された。各変異体の間には、バンド強度増大の大きさに違いが見られた。この違いからエネルギー散逸の距離依存性について考察した。 また、球状タンパク質であるミオグロビンについてもエネルギー散逸の時空間マッピングを行った。その結果、タンパク質内部のエネルギー散逸において、主鎖を経由した経路の寄与は小さく、原子間コンタクトが大きな寄与をなすことが明らかになった。理論研究グループと共同して各アミノ酸残基の溶媒露出面積を計算し、溶媒露出面積とエネルギー緩和速度の間に高いそう考えることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘリックスバンドルタンパク質を利用したエネルギー散逸の距離依存性の研究は、変異体の数を増やして順調に進んでいる。エネルギー散逸における原子間コンタクトの重要性を指摘した内容は論文としてまとめ、現在投稿中である。理論研究グループとの共同研究体制は軌道に乗り、実験データをリーズナブルに説明するモデルを構築できている。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質のアミノ酸残基の紫外共鳴ラマンスペクトルを測定し、アンチストークスラマンバンド強度の時間変化をもとに残基単位でエネルギー移動速度を明らかにする。平成26年度に製作した、微弱なアンチストークスラマンバンドを高感度で観測できる測定システムを用いて、アンチストークスラマンバンド強度の時間変化をピコ秒の時間分解能で観測する。この時間変化をもとにそのアミノ酸残基を導入し、タンパク質内部各部位でのエネルギー流入、流出速度を求める。これによって、タンパク質内部でのエネルギー移動を時空間分解観測する。このデーターから蛋白質内のエネルギー散逸を支配する構造的因子を明らかにする。 平成28年度は、チトクロムb562に対する時空間分解観測を行う。ヘリックスバンドル内部へ配向したトリプトファン残基とヘリックスバンドル外部へ配向したトリプトファン残基に対して行い、結果を比較する。両者の差は、タンパク質-水間のカップリングの強さを反映すると考えられる。すなわち、タンパク質-水間のカップリングの強さによって、両者の間には伝搬するエネルギーの距離に応じた減衰に差が現れると考えられる。この差を詳細に調べることで、タンパク質-水間のカップリングの強さを求め、タンパク質-水間エネルギー散逸機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の変異体タンパク質について発現量が低く、測定に必要な量を得るのに時間を要したため。
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次年度使用額の使用計画 |
実験条件の最適化により、現在は発現量の向上が達成されている。今後測定を進め、質の高いデータを得る予定である。
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