研究課題
光電変換系において重要な役割を担う、主鎖にπ電子系を有する共役高分子では、理論予測を遙かに超えた高速かつ長距離の励起子輸送を示す。この詳細な分子論的メカニズム解明を目指し、単一高分子の時間・空間分解検出を可能とする測定システム構築し、高分子中の発光部位とそのサイズの特定、これらの高分子系における励起移動機構解明を目的とした研究を行う。上記目的のため、平成26年度は、共役高分子中の発光サイト(クロモファー)の位置を高精度に、3次元的に決定可能な測定装置の構築とその評価を行った。3次元的なクロモファーの位置決定のためには幾つか方法が存在するが、装置構成が比較的単純で、これまでの経験、ノウハウ等を有効活用可能な、結像系に非点収差を導入する方法を採用した。非点収差導入のため、シリンドリカルレンズを結像光路に挿入するが、所望の収差を実現するためのf値、レンズの挿入位置などを種々検討した。構築した装置の性能評価のために、ペリレン誘導体を高分子ガラス中に固定化し、その位置をピエゾステージを用いて少しずつ(例えば5 nmずつ)変化させ、各位置における蛍光像を取得し、その楕円率を得た。これを光軸方向位置の校正曲線とした。得られた校正曲線を用い、高分子ガラス中や固体基板表面に固定化された単一蛍光分子に対してその3次元位置の揺らぎを計測し、装置を評価した。構築した装置では、水平方向25 nm, 光軸方向40 nm程度の位置決定精度が実現できた。さらに、多波長の励起光学系を構築し、顕微鏡下での光ポンプ―ダンプ実験を行うための基本的な装置構築が完成した。加えて、パルスレーザー励起用の照射光学系をイメージング装置に追加し、CW及びパルスレーザー両方で試料を励起可能な装置を構築した。フォトニック結晶ファイバによる波長変換液機構を組み込み、種々の波長で励起可能な照射光学系とした。
2: おおむね順調に進展している
当初計画書にあるとおり、初年度は装置の構築とその評価を主眼に研究を遂行した。3次元的なクロモファーの位置決定のために結像系に非点収差を導入した蛍光イメージング装置を構築した。非点収差導入のためのシリンドリカルレンズを挿入する場所、所望の収差を実現するためのf値などを種々検討し最適条件の決定に至った。クロモファーの位置決定精度として、20-40 nm程度が実現できたため、おおよそ当初目標を達成できたと言える。また、光励起、光脱励起の実現が可能な多波長での光照射光学系の構築、所望の波長でパルスレーザー励起用の光学系等の構築も完了し、実験はほぼ順調に進展していると判断した。
2年次(平成27年度)は、パルスレーザー励起によるワイドフィールドイメージングにおいて、ポンプ光により励起されたクロモファーを励起寿命の間に基底状態にダンプ(誘導放出による脱励起)し、励起直後の情報のみを検出可能な装置として完成させ、その性能を評価する。そのために、電動ディレイステージの設置及び調整、光学系の最適化等を行う。さらに、より詳細な蛍光寿命のダイナミクスに関する情報を取得するため、及びポンプ―ダンプ単一分子蛍光イメージングのスキームが設計どおり動作するかを確認するため、共焦点顕微鏡を用いた検出システムも構築する。これにより、ポンプ―ダンプ単一分子蛍光の蛍光減衰曲線の取得を可能とし、光学ディレイやダンプ光の光照射条件などをより詳細に評価、最適化可能とする。光励起タイミングの評価、最適化が修了次第、ポンプ―ダンプ蛍光の単一分子蛍光イメージングに取り組む。まず単一分子イメージングの標準的サンプルであるペリレンジイミド誘導体や、Atto色素などを参照サンプルとし、その蛍光減衰曲線をポンプ―ダンプ励起の光学配置で取得する。これによりディレイ時間軸の校正及び光照射条件を決定する。次いで、ワイドフィールド励起条件下で複数蛍光分子を同時励起、脱励起し、そのイメージを取得する。得られたデータを詳細に解析し、目的に叶う装置に仕上げる。装置の構築、最適化が終了次第、共役系高分子をターゲットとし、ポンプ―ダンプ励起の光学配置によりその蛍光イメージを取得する。
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