研究課題/領域番号 |
26288009
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮坂 博 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40182000)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 単一分子計測 / 時間分解測定 / 蛍光検出 / 励起移動 / 超解像 |
研究実績の概要 |
光エネルギー捕集などに重要な役割を果たす分子集合系を対象とした単一分子レベルの蛍光検出測定装置の開発、製作、また時間分解計測への応用を目的として研究を行っている。初年度(H26)には、主に2次元(2D、xy)方向の空間分解計測を行ってきた超解像測定システムに、z軸(光の進行方向)高空間分解能を付与するため、新光学系設計、装置構築、基礎データ取得を行った。この結果、高分子フィルム中の発光色素に対して、約20-40nmの空間分解能でそのZ軸位置の特定が可能となった。興味深いことに、薄膜内の蛍光ゲスト分子の存在位置は色素に大きく依存し、界面から数500-700nm程度離れた箇所にのみ分布するものも存在することが明らかになった。この距離は単に界面と色素の相互作用からの影響で説明できるもの(せいぜい数10nm)より遙かに長く、界面の影響を受けて高分子物性が基板から数100nm離れた距離にまで変化していることを示唆している。 H27年度は、膜厚やフィルム中の詳細な研究を行うと共に、3次元拡散ダイナミクスの研究へも拡張し、空間・時間分解能の向上を目指した。その結果、10種類以上の色素のフィルム内における存在位置とその並進拡散ダイナミクスのデータを取得することができ、膜厚、基板界面からの距離に依存した高分子薄膜の物性について新たな知見が得られつつある。 また、時間分解能の向上をめざし、蛍光励起と基底状態への誘導放出光を組合せた多色レーザー導入光学系の設計し、超解像パターンの作成を可能とする光学系を構築した。またこれらの詳細なデータ解析を基に、励起パルスレーザーと誘導放出光の最適化条件の光学系の条件を検討し、これらの結果、光強度の条件についての知見を得た。これらの基礎データに基づき、H28年度には高空間・時間分解計測システムを完成させ、単一分子集合系のダイナミクス測定に応用する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、3次元空間分解能の達成とゲスト分子のZ軸における存在位置の特定を目指した研究を行ないつつ装置の空間分解能向上、2色レーザーを用いた超解像スポットの作成による微小領域の選択励起技術については、概ね完成できた。並行して、アンサンブル試料のフェムト秒ダイナミクスの測定も行ってきた。これらの中では、特に、高分子フィルム中のゲスト色素分子が、基板界面から500nm以上長距離にわたって、その距離に依存して不均一に存在し、その分布も色素の種類によって、大きく異なることが明らかとなった。一般に、高分子固体の物性は、界面・表面から、10〜数10nm程度の領域では、内部のものとは異なることが知られていたが、界面から数100nm以上の長距離において、ゲスト色素の溶解性に関わる物性が異なることは知られておらず、基礎的にも興味深い現象ではある。また更に、高分子フィルム中のゲスト分子の関わる(光)反応は、フォトレジストや架橋などの工業プロセスにも密接に関連しており、また3次元超解像は本課題に基幹手法でもあるので、基礎的な装置評価の観点から研究を推進した。今後の発展については、必要に応じ別プロジェクトとして、高分子物性の観点を取り入れた研究を展開することも可能と考えている。その他、2色レーザー光による超解像発光スポットの作成や時間分解計測などについても、上述のように、ほぼ予定通りに進展しており、全体としては、当初予想していない興味深い結果が得られたため、本課題に関わる計画としては、若干の遅れもあったが、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
上述の現在までの進捗状況に基づき、時間分解能の向上を主目的として、H28年は研究を展開する。特に、フェムト秒レーザーを用いて誘導放出光導入下における励起パルスと誘導放出パルス(ダンプパルス)の照射時間間隔に依存した時間制御法に関しては、光学系の構築、基本的なデータの取得は完了しているが、ダンプ光の波長における過渡吸収と誘導放出確率は、系に強く依存する。そのため、アンサンブル測定による過渡吸収スペクトルとその時間依存性を正確に測定する必要がある。これらのアンサンブル情報を必要に応じて取得しつつ、既に獲得した超解像結像の光学系にフェムト秒パルスレーザーを用いて、励起移動の生じる分子集合系に対する測定を行う。 これら、3次元超解像、2色超解像、パルス光による高時間分解計測に関わる実験手法を確立し、これらの結果得られたデータを総括し、3年間の研究結果を総括することにより、今後の発展について新計画を提出する。
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