研究課題/領域番号 |
26288016
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久保 孝史 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60324745)
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研究分担者 |
中野 雅由 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (80252568)
鎌田 賢司 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (90356816)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / 芳香族分子 / エッジ状態 / 電子スピン / 三回対称 / ディラック点 / 二次元構造 |
研究実績の概要 |
グラフェンが持つ「エッジ状態」と「ディラック点」という2つの大きな電子的特徴を、化学合成したモデル分子を用いて分子レベルで理解し、その特徴的電子構造に由来する特異な電子物性を解明するのが本研究の目的である。我々はすでに最小の(2スピン系の)エッジ状態の発現と、ディラック点を発現すると期待される三回対称性分子の合成まで成功しているが、本研究ではこれらの予備的成果をさらに発展させることを狙う。すなわちエッジ状態に関しては、実際のグラフェンにより近いマルチスピン系のエッジ状態を発現する分子の合成を試み、各種測定からエッジ状態の理解を深化させると共に、エッジ状態特有の機能性を明らかにする。また、ディラック点に関しては、三回対称性分子の二次元集積化を試み、分子を用いたディラック点の創出に挑む。 今年度の成果は次の通りある。 【エッジ状態】ビスアンテンを出発物質として水平方向にπ拡張する合成法の確立を試みた。ビスアンテンのBay領域にテトラブロモエチレンをDiels-Alder反応させることで、ジブロモベンゾビスアンテンに導くことに成功した。さらにSuzuki-Miyaura反応によりブロモ基を2-メチルフェニル基へと変換した。現在Scholl反応により環化脱水素反応を試みている。 【ディラック点】溶解度を向上させた三回対称性分子の合成に成功した。溶解度を向上させたことで、単分子の電子構造を詳細に明らかにすることができた。二次元集積体でディラック点が発現するには、格子点に相当する各分子が不対電子を持っている必要があるが、合成した三回対称性分子は不対電子が室温では分子全体に非局在化していることが明らかとなった。一方、低温では不対電子が分子の一部に局在化する挙動も観測できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【エッジ状態】本研究の目的の一つは、ビスアンテンを出発物質として水平方向に逐次π拡張する合成法を確立することである。本年度は、ビスアンテンの水平方向へのπ拡張化の足がかりが得られたことから、研究は概ね順調に進展していると判断できる。一方、出発原料となるビスアンテンの大量合成が未だ難しいこと、π拡張化の収率が安定しないことなど、改善すべき点が残されている。 【ディラック点】ハニカム状二次元膜の構成成分となるプロペラ型三回対称性分子の合成法の確立に成功し、分子内の共役の程度を実験的に明らかにできたことから、研究は概ね順調に進展していると判断できる。一方、プロペラ型分子とは異なる三回対称性分子(三角形型分子)については未だ合成法の確立に至っておらず、今後の検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
【エッジ状態】ビスアンテンの水平方向へのπ拡張化については、1)ビスアンテンの大量合成を行うため合成法の改良を行う、2)π拡張化の収率を安定させるため反応条件の見直しを実施する、3)π拡張化の最初のゴールとしてペリペンタセンの単離を目指す、の三点を重点的に検討する。ペリペンタセンの単離に成功した場合は、X線結晶構造解析や各種分光測定ならびに電気化学測定を行って、開殻性の観点から分子の電子構造を詳細に明らかにする。 【ディラック点】プロペラ型三回対称性分子については、一電子酸化状態での分子集積化を行ない、理想的なハニカム二次元構造膜の構築に挑む。膜が得られた場合は、ディラック点の存在の有無をARPES測定や電気伝導度測定により明らかにする。三角形型分子については、引き続き合成法の確立を目指す。
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