研究課題/領域番号 |
26288017
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
山本 陽介 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50158317)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カルベン / 合成 / 構造 / 反応中間体 / 性質 |
研究実績の概要 |
(新規三重項カルベンの熱的安定化の研究) これまでに固体状態で安定な三重項カルベンの単離は達成されていない。これまでの世界記録は、溶液中での富岡教授のアントラセンで非局在化した系の半減期2週間という報告である。富岡教授の系は、固体では不安定で二量化などが起こるため、より効果的な立体保護基が必要であるが、光脱窒素反応による三重項カルベンの生成を用いているため(反応はクリーンであるが)これ以上の立体保護基を導入するのが極めて難しいという問題があった。我々は、超原子価6配位炭素合成に用いてきたチオキサンテン系を改良して、酸化反応による三重項カルベンの単離を長年目指してきた。この系は、効果的な立体保護基を導入することができるという利点があるものの、反応系中に酸化剤の残骸が残るという大きな問題がある、つまり、非常に安定な三重項カルベンを合成できないと生成物の単離もできないという大きな問題があると言えた。これまでの研究で、立体保護基として OPhを有するアレンの酸化では、中心炭素とOPh基が反応して分解してしまうことが明らかとなっていた。そこでさらに系の改良を進めてきて、今年度ついに富岡教授系と非常に類似したESRの観測に成功した。今年度は単離に取り組む。 (新規一重項カルベンの合成) これまでに、独自の方法で、新規一重項カルベンの合成に成功してきた。この系は、NHC系の展開ではあるが、立体的に堅固な骨格を有するユニークな系である。そこで、配位子をいろいろ合成してきた。これまでに、リン・硫黄の配位子系の合成に成功していたが、近年芳香族配位子系の合成にも成功した。そこで、現在は合成法の改良とともにさらにリン配位子の改良と遷移金属系の開発に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三重項カルベンについては、今までの研究で、立体保護基として OPhを有するアレンの酸化では、中心炭素とOPh基が反応して分解してしまうことが明らかとなっていた。そこで本年度の研究では、中心炭素と置換基の反応を抑制するため、OPh基の3,5位に嵩高い置換基を有するアレンの合成とその酸化に取り組み、生成物として黒紫色の単結晶を得たが、得られたエックス生解析結果から、生成物の構造は目的の三重項カルベンではなく、一つの酸素原子が中心炭素に配位した閉殻一重項種であることがわかった。そこで、新たに系を改良し直し、縮環系のアレン合成に取り組んだ。苦労した末に合成に成功し、酸化検討を行ったところ、これまでの世界記録である富岡教授の系(固体での単離には成功してない)と非常に類似したESRを得た。まだ前駆体合成が厄介なため、生成物の単離には至っていないが、ついに目標に近づいたと考えている。 もう一つのテーマである「新規一重項カルベン」についても、芳香族置換基の導入だけでなく、新たなリン置換基系および金などの遷移金属の導入にも取り組んでおり、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
新規三重項カルベンの溶液中での観測に成功したと言い切れるので、今年度は、前駆体のアレン合成の効率化に取り組みつつ、生成物の固体での単離に取り組む。固体状態での単離に成功すれば、基礎化学における金字塔となる成果であるので、ぜひ成功させたい。 新規一重項カルベン合成については、様々な遷移金属種の導入のために、リン置換基系の合成に取り組んでいるが、成功しつつあるので、今年度は、遷移金属化合物の合成とその性質の解明にも取り組む。
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