研究課題/領域番号 |
26288018
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
千田 憲孝 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (50197612)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / キラルプール法 / タキソール / ネオステニン / カイトセファリン |
研究実績の概要 |
天然から容易に入手可能な糖類やアミノ酸などを出発原料として標的化合物を合成する手法(キラルプール法)は、光学的に純粋な化合物を合成する上で有用な方法論である。また、原料が有する炭素を標的化合物に導入することになるので、炭素資源の有効的な利用法としても重要である。本研究課題では、糖類などのバイオマス・キラル炭素資源を出発原料とし、3成分連結反応、水酸基の不斉転写を伴うシグマトロピー転位、ラジカル反応による環構築などの効率の高い反応を駆使し、タキソール、ネオステニン、カイトセファリンなど、複雑な構造と顕著な生物活性を有する天然有機化合物の合成を試み、糖質利用キラルプール法による天然物合成の方法論の新たな展開と発展を図ることを目的とした。 1)タキソールの合成研究:平成26年度の研究により、ヨウ化サマリウムを用いた環化反応により、6-8-6の炭素環を有する環化体を合成することができ、ならびに構築が難しいとされている橋頭位オレフィンの構築に成功した。これによりタキソールのABC環部の新規合成法を確立することができた。また、環化体の構造をX線構造解析により、確認することができた。 2)ネオステニンの全合成研究:平成26年度の研究により、L-アラビノースより合成した直鎖状アリルトリオールにおいて、Claisen転位、連続的Overman/Claisen転位という3回のシグマトロピー転位を行うことにより、アラビノースの水酸基の不斉を転写した化合物を高立体選択的に合成することができた。 3)カイトセファリンの全合成研究:平成26年度の研究によりL-アラビノースより直鎖状アリルアルコールを合成し、この化合物におけるOverman転位により、含窒素四置換炭素の立体選択的構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タキソールの合成研究:糖質より合成したAC環化合物において、ヨウ化サマリウムによる環化反応によりタキサン様骨格を合成することができた。また、構築が難しいであろうと考えていた橋頭位オレフィン導入がChugaev反応を用いることにより高収率で達成できたことが主たる成果であった。これによりタキサン骨格の効率的構築が可能となり、当初の計画に近い成果を達成できたと考えている。また、環化体の構造をX線結晶構造解析により確認することができたことも大きな成果であった。 ネオステニンの合成研究:L-アラビノースより合成した直鎖状アリルトリオールにおいて、3回の連続したシグマトロピー転位反応が、ほぼ想定通りに進行したことが大きな成果である。特にオルト酪酸トリメチルを用いたClaisen転位において、望みの立体選択性が発現した点は、今後の合成研究にとって有用な結果となった。まだ収率に改善の余地はあるが、標的化合物の官能基を立体選択的に構築することができたので、全合成達成に向けて計画通りの成果を挙げることができた。 カイトセファリンの合成研究:L-アラビノースより、想定した直鎖状アリルアルコールの合成に成功した。またこの基質において、困難が予想された含窒素四置換炭素の構築を試みたところ、想定通りにOverman転位反応が進行した。収率に改善の余地は残されているが、これによりカイトセファリンのα置換α-アミノ酸構造を立体選択的に合成するルートを開拓することができ、当初の目標を達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
タキソールの合成研究:今後はオキセタン環の効率的な構築法を検討し、高橋らによって報告されたタキソール合成の中間体を合成し、形式合成を完成させる予定である。具体的には、昨年度までに合成できたタキソールABC環部にエキソオレフィンを導入し、ついでアリル酸化、生じた水酸基への脱離基の導入、塩基処理による分子内エーテル化によりオキセタン環を構築する。所望の化合物が得られらば、残る官能基を変換することにより、高橋中間体へ導く計画である。 ネオステニンの合成研究:これまで、想定した研究計画通りの成果が得られているので、今後も当初の計画通りに研究を進める。まず得られた転位体を環状化合物へ変換する反応を検討する予定である。具体的にはまず分子内縮合により5員環ラクタムを合成、ついで分子内アルキル化反応により含窒素7員環の構築、ヨウ化サマリウムによる分子内ラジカル反応などにより、ネオステニンの環構造を順次構築する。これにより、ネオステニンの基本骨格の合成ルートを確立する予定である。 カイトセファリンの合成研究:昨年度までに得られた含窒素四置換炭素を有するアリルアルコールにおいて、分子内SN2’反応による水酸基の導入、ついでOverman転位による窒素官能基の導入を試みる。これらの変換反応では、水酸基の立体化学の不斉転写が効率的に進行する反応条件を精査する計画である。所望の化合物が合成できれば、これを分子内縮合により5員環ラクタムへ導き、カイトセファリンの右側部分の合成を完了する。ついで左側部分と右側部分を結合させることにより、全合成を完成する予定である。
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