研究課題/領域番号 |
26288019
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
山下 誠 中央大学, 理工学部, 准教授 (10376486)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ホウ素 / 求核種 / アニオン / ジボラン |
研究実績の概要 |
平成26年度は研究計画に示した項目のうち、(1)-(a)ボリルアニオンの炭化水素溶液の大量調製法確立、(1)-(d)ホウ素置換典型元素化合物群の合成と性質の解明、(2)-(a)非対称diborane(4)と一酸化炭素・イソニトリルとの反応の詳細解析、に加えて、(1)-(c)ボリルアニオンと水素分子の反応における反応機構解明、(1)-(a)追加項目:ボリルアニオン炭化水素溶液の特異な反応性の解明、(2)-(b)の一部:非対称diborane(4)とアルキンの反応、(2)-(c)の一部:非対称diborane(4)の電子受容性解明、について研究を行った。 (1)-(a)では炭化水素中での混合ボリルアニオン塩の調製条件の確立を行い、これが最強の塩基としてベンゼンおよびビシクロ[4.1.0]ヘプタンを脱プロトン化することがわかった。論文作成中。(1)-(c)では反応機構をDFT計算により解明し、論文発表した。(1)-(d)ではホウ素置換ジホスフェンの合成を行い、これの1電子還元によるラジカルアニオン塩の合成を達成した。論文作成中。 (2)-(a)では非対称diborane(4)とCOおよびイソニトリルの反応機構をDFT計算により解明し、論文発表した。また、イソニトリルとの反応においてピリジンを共存させると、ピリジンのオルト位が官能基化されることも判明している。(2)-(b)では非対称diborane(4)と末端および内部アルキンが無触媒で反応し、末端アルキンの場合には反応条件を変えることにより主生成物の作り分けができることを明らかにした。(2)-(c)では非対称diborane(4)の電気化学測定を行うと共に、1電子還元によるラジカルの単離を行い、その高い電子受容性の起源がB-B間での二面角に依存したLUMO準位であることをDFT計算により明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目(1)においては当初の計画通り初年度に(1)-(a)および(1)-(d)を検討し、計画に沿った結果を得た。一部前倒しとなるが追加で(1)-(c)も行ったところ、高反応性ホウ素化合物ボリルアニオンがルイス塩基として作用する際、同時に対カチオンがルイス酸として作用しており、FLP様の反応性を示すことが明らかになった。 研究項目(2)においては当初の計画通り初年度に(2)-(a)を行うと共に、前倒しとはなるが(2)-(a)の一部と(2)-(c)の一部についても検討を行うことができた。後者の検討によりアルケニルボランの効率的合成法を確立できたことに加え、非対称diborane(4)の高い電子受容性の起源を明らかにすることができた。 これらのことより当初の研究実施計画通り進展していると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
26年度中に論文投稿へ至らなかった課題を詰めると共に、研究目的に記した(1)-(b)および(2)-(b)を行う。 (1)(b)(i) bora-Brook転位反応の開発:ボリルリチウムより誘導可能なボリルベンジルアルコールを脱プロトン化して求電子種を反応させると、アニオン性酸素の反応、ホウ素がBrook転位型で反応した生成物が得られること、を予備的に明らかにしている。このbora-Brook転位反応の速度論解析を行い、溶媒効果を明確にすると共に、活性化パラメータより反応機構に関する知見を得る。(ii) ボリルアニオンによる有機化合物の脱酸素化:ボリルリチウムはCO2と反応してボロナートに酸化され、COを与えることがわかっている。そこでボリルリチウムを用いてE-アルケン由来のエポキシドを開環、C-C結合の回転とボロナートの脱離を経由してZ-アルケンを収率良く合成することを目指す。イソシアナートとの反応ではイソシアニドが発生することを確認しているため、悪臭を有するイソシアニド類のフラスコ内効率的発生法へと繋げる。 (2)(b)非対称ジボランの反応性に対する置換基効果を見積もるため、ピナコール基の代わりとしてネオペンチルグリコラート基、N,N'-アルキルエチレンジアミノ基、Mes基の代わりに各種アルキル基、アリール基を導入したジボラン誘導体をそれぞれ合成し、そのCO・イソニトリルに対する反応性の比較を行う。また他の三重結合化学種としてジアゾニウム塩の反応を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は物品費として計上していたガラス器具等において予測よりも既存の器具の損傷およびこれに伴うガラス器具の新規購入が少なかったこと、不活性ガスの購入において他の研究課題と共用で使用しているグローブボックスにおける消費量が少なかったために、これらの支出を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に計画している非対称ジボラン誘導体のライブラリ合成においては、大量合成が必要となるため、サイズが大きな特殊なガラス器具を発注予定としている。また、研究項目(1)-(a)において追加項目での研究を進めることとなったが、これの検討においては各種同位体ラベル試薬等の高価な試薬が必要となる。次年度使用額は主にこれらの支出に充てる予定である。
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