近年、外部から隔離された内部空孔を有するカゴ型分子の性質が注目されている。これらの分子は、物質を取り込み、その物質を反応させる場として利用できることが期待されるため、活発に研究が行われている。これまでに、各種カゴ型有機分子や錯体分子の構築法が確立されてきており、その閉空間における分子の反応性などが明らかにされてきた。しかしながら、これまでの多くのカゴ型分子は、物質の取り込み速度や放出の速度を能動的に制御するのは困難であった。すなわち、取り込みや放出の速度は、カゴ型骨格にもともと備わっている開口部の大きさと取り込まれるゲストの大きさの相対的な関係により決まるものという前提のもとで研究が行われてきた。
本研究では、これを自在にコントロールできるような、大環状構造の新規な開閉機構の創出を目指した。開閉可能な大環状構造の基本骨格として、有機骨格から成る大環状ビス(saloph)配位子を独自に設計し、ここに、八面体六配位構造を好むコバルト(III)を二つ導入した。salophは四座配位子であるため、コバルトには軸配位子としてさらに二つの配位子を導入することができる。このサイトは対アニオンとの結合部位として働き、空孔に取り込まれたゲストをキャッピング効果により閉じ込めることができる。実際、空孔に取り込まれたゲストイオンの出入りはNMRのタイムスケールで非常に遅くなっていることが明らかとなった。このキャッピング効果によって速度論的にトラップされた状態が非常に安定化され、これを利用することで、カリウムイオンとランタンイオンの間のゲスト交換をトリフラートから酢酸イオンへのアニオンの交換によって望みのタイミングで実現できた。すなわち、本システムはon-demand型のゲスト交換を初めて実現したホストとなった。
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